48-39
「……これって」
左手の薬指につけられていた指輪を見た瞬間、ハナがうらめしそうな顔をしているのがメイデンにはわかった。しかしそれは、普段感じるような不快なものではなく、どちらかというと羨ましいのだとわかった。
「……鉄の女神様と鍛治の男神様が優真に頼まれて造った傑作なんだってさ……私達のと違うからって一人だけ特別って訳じゃないんだから勘違いしちゃ駄目だからね!!」
その言葉でなんとなく背景を理解したものの、やはり理解できないものはあった。
自分は彼を襲った。殺そうとした。
そんな自分に果たしてこれは相応しいものなのだろうか?
(……きっと……相応しくない……よね……)
そう思った瞬間、指輪の中央に刻まれた六芒星が輝きだした。そして、そこから一人の少女が出てきて、黒いマントを翻してハナの隣に立った。
その姿に、二人は見覚えがあった。
「やぁ」
軽い挨拶をしてくるその銀髪少女は、鉄を司る女神だった。
((???))
何が起こったのか理解出来ていない二人をよそに、鉄の女神はニコニコと楽しそうな笑顔を向けていた。
「いや~優真君にも内緒で作った機能もうまく作動するみたいだね~」
その言葉を聞いた瞬間、ようやくメイデンには理解出来た。
神という存在は、面白いものが好きだ。基本的に嘘をつくことはないが、相手が驚く様を見るのを楽しむ女神も残念ながら少なくない。
そして、メイデンはこの女神がそういうのが大好きだと知っている。
「さて、我がなぜここに来たのか……メイデン、君にはわかっているのだろう?」
驚くハナをよそに、話を切り出す女神。
メイデンは彼女に向かって小さく頷いた。
鉄の女神はその姿を薄目で確認し、意を決したように口を開いた。
「君には失望した!! 我の眷族筆頭でありながら、我の顔に泥を塗った! 本来であれば、この場で君を追放し、地獄へ突き落としたいところだが、どっかの物好きが君を自分の眷族筆頭の妻として眷族に迎え入れたいのだそうだ!! 我はやめた方がいいと勧めたが、聞く耳を持っておらぬらしい!」
呆けた表情をこちらに向けるメイデンの姿を見て、鉄の女神の目から、出したくなかった滴がポタポタと床に落ちていく。
彼女の主神として、最後の仕事。
最後くらい女神らしく、気高く終わらせたかったのに、涙が勝手に溢れ出して止まらない。
「眷族筆頭の地位はカリュアドスに返上し、君から眷族の地位も剥奪する!! …………っ!! もう二度と……我の前に姿を見せるでないぞ!!!」
女神は涙声でそう言うと、メイデンの顔を見た。
そこには、無表情とは程遠い……涙でくしゃくしゃになった可愛らしい我が子の姿があった。
そして、鉄を司る女神はそれを辛そうに見て、その場から跡形もなく消えてしまった。




