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その子は、白い髪ではあったがところどころ土埃で汚れていた。こう言っては失礼だが、少し小汚ない印象を与えてきた。
10歳くらいの見た目で、胸の発達が始まっているのか、少し膨らんだ胸に、ガリガリに痩せた体、くるんとカールした白い尻尾を生やした何も身に付けていない少女だった。
いや、正確には身に付けていた灰色のローブを俺が剥いだだけなんだけどね。
当然といえば当然だが、俺の頬に顔を真っ赤にした少女がビンタをしようとしていた。
「……【勇気】って便利だけど空気読まないよね…………攻撃も回避もしない。ステイに決まってんだろ!」
直後、痛々しい音が辺りに響いた。
◆ ◆ ◆
「本当にごめんってば」
俺は顔の前で手を合わせ謝ってはいたが、猫耳少女はふんっと言いながらそっぽを向く。人が奢った焼き鳥を口一杯に頬張りながら。
なんだろう。わざわざ助けたのに割に合わない。
いや、見返りが欲しかった訳じゃないよ? なんで助けたら財布にダイレクトアタックされなきゃならないのか聞きたいんだ。……しかもめっちゃ食うし。……あぁ、買い出しの仕事でもらった報酬の前金が消える。
別に俺たち以外に人もいなかったから、連行されることはなかったけど、よくよく考えたら女子小学生くらいの少女の服を剥いだんなら、日本じゃ逮捕待ったなしだからな…………ここが日本じゃなくて本当に良かった。
……いやまぁ、俺も無理矢理フードを取ろうとしたのも悪かったかもしれん。だけどさ、自分からフード取れば良かったじゃん!
わざわざ抵抗するから、こっちも力の加減を間違えたんだよ?
いやまぁ、女の子の裸見たんならいいだろって、人は思うかもしれんが、子どもの裸なんてな、こっちは見慣れてんだよ? ……別に今更どうも思わんさ。
いやね、保育士になったら子どもの裸なんてほぼ毎日見れるよ?
それにいちいち反応してたら、身がもたないよ?
そりゃ確かにこの猫耳少女は、幼児じゃないかもしれんが、あんまり変わらんし、どちらかと言うと、その痩せこけた腹部や汚れた髪の方が気になったよ。
……そういえばさ、あの破落戸がこいつを性的に教育するって言った時、こいつを男だと思ってたから、てっきりあっち系なのかと勘違いしてたよ……。
勝手な偏見かもしれないけど、なんか子どものスリって男の子の印象が強かったんだよね。体型も女の子って印象はうけなかったし、フードで顔も見えなかったし。
というかあいつら女の子を蹴ろうとしてたのか。……次会ったら絶対許さん!
「…………そういえばスリをはたらいたってあいつらが言ってたけど本当か?」
その話題を出すと、猫耳少女はいきなり咳き込み始めた。
「おいおい、大丈夫か?」
「僕に触んな!」
背中を擦ろうとすると、猫耳少女がいきなり俺の手を払った。
俺のことが嫌いで怒ったのかと思ったのだが、猫耳少女の怯えた表情から察するにどうやら違うようだ。
「お前もどうせ奴隷商人に僕を売るんだろ! 僕が絶滅危惧種ってやつだから!」
猫耳少女って絶滅危惧種なのか? それは初耳だな……って奴隷!? この世界にも奴隷って概念があるのか?
それについて女神達に詳しく聞こうとした時だった。
「僕は家族の所に帰るんだ! ……また皆と一緒に平和に暮らすんだ! そのためには、こんなところで捕まる訳いかない!」
猫耳少女はそう捲し立てると急に逃げ出した。




