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訳がわからなかった。
いったい何を言っているのだろうか?
そんなことを思ってしまう程に、理解不能な内容だった。でも、不思議と嘘はついていないように思えた。思えば、自分を殴ったあの男も支離滅裂な内容ではあったけど、嘘を吐いているようには見えなかった。
人間なんて信用できない。そう思った筈なのに、自分は彼女を信用しようとしていた。
「まぁどっちにしても、君の選択は二つに一つ。ここで私の手を取り、眷族として私につかえるか……それとも、私の言葉を信用せずにこのままここで家族を殺した罪を背負って死ぬか。さぁ、どっちを選ぶ?」
彼女はそう言ってこちらに手を伸ばす。
どうすればいいのかわからない。家族を失い、大好きな人達を失い、信頼していた人に裏切られる。そんな思い出を抱えてこのまま生きていくくらいなら、いっそ死んだ方が楽だと思った。
でも、私は彼女の手を取った。
理由はわからない。ただ、そうすべきだと思った。
こうして私は、メイデン・クロムウェルとして、鉄の女神様の眷族となった。
◆ ◆ ◆
ベッドの上でメイデンは目を覚ます。
そこには目新しいものなど無かったが、不思議と不信感は抱かなかった。
いったいなぜこんなところで眠っているのか。そんな疑問に苛まれながら、メイデンはもう一度目を閉じた。
そして、今度は慌てたように目を覚ましたメイデンは、勢いよく体を起こす。
自分は先程まで優真と戦っていたことを思い出したようだ。
そして、出口を探そうと部屋の光景に視線を移すと、一人の少女が椅子に座っているのが見えた。
「ようやく目を覚ましたんだね?」
そう言ったのは、桃色の髪の少女だった。彼女は、木製の椅子に座って、ベッドの傍にいた。
「……ハナ? ……ご主人様は?」
そう言って、再びキョロキョロと周りを見渡すが、この部屋にハナ以外の存在はいない。
「ユウタンはあんたをここに運んだ後スタジアムに戻らせた。明後日は正真正銘の化け物と戦う訳だからね。少しでも見とくように言っといた」
ハナの言葉にメイデンは小さく「……そう……」と答えた。
いつもであれば感情をまったく感じさせないというのに、その時見せた彼女の表情は少しだけ哀しそうだった。




