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その男性からはただならぬ雰囲気が感じられ、無意識の内に剣を握っていた。
「10年ぶりですね……と言っても、貴女には天界での出来事は覚えていないように設定されていたはずですから、私のことも覚えてないでしょうが……」
一歩、また一歩と近付いてくる男性に、体が恐怖を感じる。
でも、殺らねば自分が殺される。
剣の柄を握りしめ、足に力をこめる。
「おやおや……常人では立つこともままならない筈なのですがね……」
そう呟く男性に向けて、剣を振るう。
だが、剣は彼の体に当たった瞬間、ポッキリと折れてしまった。
「人間の造った武器は私に効きませんよ……」
そう言われた瞬間、腹に強い衝撃を受けた。その威力に立つこともままならなくなり、意識も闇へと誘われた。
◆ ◆ ◆
次に目覚めたところは牢屋の中だった。
訳がわからない私だったが、私の目覚めに気付いた看守の人間が、私は人殺しとして牢屋に連れてこられたと教えてくれた。
鉄格子付きの窓から月明かりが入ってくる。
長い夜だった。自分の今まで経験してきた出来事が脳裏を過り、涙が溢れるように出てきた。
そんな私の目の前で信じられないような出来事が起こった。
立っていた看守の人間がいきなり倒れたのだ。
それだけではない。
懐かしい感覚と共に目の前が眩しく光る。
そして、恐る恐る目を開けてみると、そこには神々しい光を放つ少女が立っていた。
その姿に、驚くことしかできない。そんな私に彼女は話し掛けてくる。
「久しぶり……と言ってもカリュアドス君の時と同じで私のことも忘れているのよね?」
その問いに、返事は出来なかった。それでも彼女は気を悪くした様子を見せない。
「じゃあ改めて自己紹介から始めましょう。私は女神。正確には、鉄を司る女神です。以後よろしく、メイデンちゃん」
「……神……様?」
「そうそう。鉄を司る神様! 昨日メイデンちゃんを気絶させた無愛想なお兄さんよりも偉い存在なんだよ~」
その言葉を真に受けるつもりはなかったのだが、昨日会った無愛想なお兄さんという存在を聞いて嫌な予感しかしなかった。
「さて、まぁそんなことは追々説明すればいいよね。まずはちゃんと聞いておかないとね……」
「……なにを?」
その疑問に、女神はもったいぶるかのように答えた。
「そりゃあ、君が私の眷族になるかどうかだよ」
鉄の女神様はそもそも、ラノベや漫画の影響で厨二病になったので、子どもを司る女神様がまだ神になっていないこの時は、普通でした。




