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頭に痛みが走って、ぼんやりとした意識の中に人の顔を見た。
そこには若い女性と男性がいた。今思えばこちらを心配していたんだと思う。それがわからない程、私は気が動転していた。
こちらに手を伸ばしてきた女性を見た瞬間、私の手は腰につけられていた剣の柄を握っていた。
そして、真紅の液体が視界に広がった。
乗っていたであろう馬車から転げ落ちるように降りた。
足に力が入らない。込み上げてくる吐き気を抑えられなかった。
服に付いた真っ赤な斑点。
そこで気付いた。自分の格好があの時着ていたボロボロのドレスではないことに。
動きやすそうな格好で、どちらかというと、少しみすぼらしかった。
訳がわからなくなるが、自分の喉が渇いていることを自覚した瞬間、それは後回しにした。
辺りを見回してみると、近くに川を見つけて、そのおぼつかない足取りでそこに向かった。
水を飲もうと川に近付く。
手で掬い、透き通った水を口元に持っていき、喉に流し込む。
「……美味しい……」
もう一杯飲みたくなって、再び川に手を突っ込んだ。そして、私は目を見開いた。
「……これ……誰?」
水面に映った自分の顔は以前と違った。それどころか、声も違う。
訳がわからなくなってきた私は、自分のポケットに何かが入っていないかを確認して、1枚のカードを見つけた。
『メイデン・クロムウェル』
そのカードには見知らぬ名前と、Fの文字が刻まれていた。
見たことない文字の筈なのに、不思議とそれが読めた。
「まったく……せっかく幸せな暮らしを望む貴女の要望に応えたというのに……不運な子ですねぇ……」
聞き覚えのない声が聞こえて、私は慌てて後ろを振り返った。そこには、銀色の髪をオールバックにした壮年の男性が立っていた。




