48-28
その声を聞いた瞬間、メイデンさんに向けていた刀がぶれた。殺すつもりなんて微塵も無かったが、この状況で俺がどうするべきなのかが一瞬わからなくなった。
もし、何かを斬った時、それが彼女の急所だった場合、彼女は命を落とすかもしれない。そう思い至ったことで、刀を振れなかった。
だが、全ての時が止まった訳ではない。
俺に気付いたメイデンさんが、迫る俺に対して、正確な鞭捌きを見せるかのように、銀色の茨を向けてきた。
俺は咄嗟に刀の刃を後ろに向け、その茨に叩きつけた。咄嗟に取った行動だった為、力負けはしたものの、威力はだいぶ軽減することができ、俺は地面に着地し、再び彼女から距離をとった。
そして、先程の声がマイクで反響させたような声だった為、俺は上空をちらりと見た。
そこには、黒いマントを羽織った銀髪の女神が立っていた。
(あれって鉄の女神様だよな……なんであんなところに?)
そう思う優真だったが、メイデンによる追い打ちが迫るのを見た為、今度は軽く後方に跳んだ。
『ごめん優真君! 正直ここまで彼女が溜め込んでいるとは思っていなかった!』
彼女の謝罪を聞き流しながら、攻撃を避け続ける。だが、このままじゃ話が出来ないと考え、優真は自分の足に力を込めた。
メイデンは再び優真に向けて銀色の茨を向けた。だが、その直前で優真の姿が消えた。
しかし、気配は消えていない。彼の気配は常に移動していた。
駆ける優真の足は速く、メイデンの目も追い付かない。
時に結界を足場にして跳躍したり、地面を蹴ったりすることで、メイデンに狙いを定まらせない。
その動きは、優真の気紛れによる動きだったことで、予想することすら不可能だった。
そんな優真が大声で叫ぶ。
「どうやったらメイデンさんを助けられるんですか!!!」
その声に、鉄の女神は嬉しそうな顔を見せた。だが、優真にそれを見る余裕は無かった。
『メイデンは今! 今まで生きてきた数百年の月日で溜まった負の感情に負けて暴走してるんだ!! 優真君と一緒に居たいって感情と、大罪を犯した自分じゃ優真君の傍に居る資格がないって感情が自分の中でせめぎあってて……それがメイデンの心を追い詰めてたんだ……』
その話を聞いた瞬間、優真はなんとも言えない気持ちになった。だが、反省している時間なんて今の優真には無かった。
進行方向を妨げるかのように銀色の茨が現れる。しかし、優真は止まらない。
「……惨の型、曼珠沙華の舞い!!」
そう言いながら、優真は銀色の茨を綺麗に一刀両断して、再び、地を駆け始めた。




