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メイデンさんの胸に銀色の薔薇が取り込まれてしまった直後、体が衝撃波で吹き飛ばされてしまう。なんとか地面に着地した俺は、その光景を見た瞬間、空いた口がふさがらなくなった。
最悪な状況になってしまった。
メイデンさんの体は空中に浮かび、下半身のあった場所はタコのような銀色の長い触手になっていた。いや、少し違う。彼女の触手には吸盤の代わりに鋭い刺がついており、その数も、8本なんて生易しい数じゃなかった。
この状況に自分の頭が追い付かない。
「……えぇ……もう……訳わかんねぇ……」
そうぼやくことしか出来なかった。
まさか、処刑人なんて不遇なことをやっているのか聞いただけでこうなるとは思ってもみなかった。家族を奪ったとか色々言われたけど、俺にはさっぱり検討もつかない。てか、霧の女神に言われるならともかく、彼女にそう言われる理由が無い。
というかそもそもおかしすぎる。
普段は取り乱すどころか、感情の変化すらまったく見せない冷静な彼女が、処刑人をやる理由尋ねただけで、化け物じみた変身をするとは到底思えない。デリカシー皆無だったと言われればそれまでだろうが、明らかに様子が変だった。
動揺や怒りとは別の変化が彼女に起こったのだと思ってもおかしくはないくらい唐突な変化だった。
「!?」
彼女の様子を観察していると、いきなり腹に衝撃を受けた。しなる鞭のような太い茨に体が呆気なく吹き飛ばされ、俺の体は結界に叩きつけられた。【勇気】が反応しないのは、変身する直前に動いたのが原因だろう。それでも、俺の目が捉えられない速さで叩きつけられるとは思ってもみなかった。
「……いってぇ……!? ふざっ!?」
休む暇すら与えてもらえず、すぐに次の攻撃が自分の体に痛みを与える。先程受けた腹の傷から、再び赤い液体が流れるのを感じる。
意識が飛びそうになる程の一撃。だが、それで攻撃が終わった訳じゃない。
次受ければ間違いなく死ぬと思われる攻撃が自分の目前まで迫ってきていた。
(……こんな戦いする予定じゃなかったのにな……)
結界と銀色の茨に体が挟まれて動けない。最悪な試合だった。彼女と真っ正面から正々堂々戦って勝つ。それで彼女を今度こそ迎え入れるつもりだった。
しかし、人生とは思い通りにいかない。
他人に諦めるなとか言っておいて、自分がこれじゃあ、世話ねぇな。
優真が避けられない死を受け入れた瞬間、優真は時が止まるような感覚に陥った。




