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「……いきなりなに?」
変わらぬ無表情でありながら、彼女は怒っているようにも思えた。だが、優真は聞くのをやめない。
「メイデンさんって本当は優しいじゃん。俺に尽くそうと頑張ってくれていたのも知ってるし、不器用なりに皆を手伝ってくれてた。神の為に俺の使用人まで始めるし……そんなメイデンさんがなんで皆に嫌われてまであんなことしてんの?」
優真の言葉で、メイデンは剣を強く握る。そして、強く地面を蹴り、一瞬で優真との距離を詰めて斬りかかった。
「……女神様が望むとおりの仕事をするのが私達眷族の仕事……やりたくないとかやりたいじゃない……女神様がやれって言えば、私達に拒否権なんてない!」
つばぜり合いになり、優真へそう答えるメイデン。だが、その表情からは微かながら怒りが漏れ出ており、いつもの冷静な彼女とは思えない程、荒々しい攻撃だった。
「嫌われるとか、嫌われないとか、そんなのどうだっていい! 元から人なんて信用できない! 女神様の言葉が無ければご主人様だって信用してなかった!! 私の家族を殺したくせに……私の全てを奪ったくせに……これ以上私から何を奪おうっていうのよ!!!」
それは明らかな異常だった。普段感情をまったくと言っていいほど見せないメイデンが激昂し、慕っている筈の優真を斬り殺す為に剣を振るった。
その尋常ならざる殺意に驚きが隠せない優真も後方に大きく跳んでかわそうとした。しかし、彼女の左手に握られた剣は、優真の反応速度を凌駕し、優真の着ていた服を切り裂き、優真の腹部を横に斬った。
かろうじて迫り来る死を回避した優真だったが、吹き出る鮮血に、悔しそうな表情を見せる。
「……いやいや……さすがにおかしいだろ……」
優真が彼女から離れると、彼女は銀色のオーラを覇気と共に発していた。
「……私だって普通に生きたかった……人を好きになって……子どもを産んで……幸せというものを感じながら普通に暮らしたかった……眷族なんてなりたくてなったんじゃない! 処刑人なんてものになりたかった訳じゃない!! 嫌だ嫌だ!! 私のこと何も知らないくせに知ったような口をきくなーっっ!!! 【鉄の薔薇】!!!」
赤い涙を流しながら激昂する銀髪の少女。その手に突如現れた銀色の薔薇は以前と異なり、どす黒い雰囲気を醸し出していた。
猛烈に嫌な予感を感じ、彼女の行動を止めなくてはならないと優真は急いで地面を蹴った。しかし、時すでに遅し。
怒り狂うメイデンは銀色の薔薇を体に取り込んだ。




