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俺がそうぼやくと、男二人がいきなり腹を抱えて笑い始めた。
「何を言い出すかと思えば、ナイフが反則? 反則なんてもんがあるわけねぇだろ! それにおめぇだって、剣を腰につけてるじゃねぇかよ!」
「……見てわかんないの? 俺は両手でこの子を抱えてるんだから、剣を使える訳ないじゃん」
「それもそうだな。だったらおとなしく死んどけ!!」
そう言って男たちは二人同時に飛びかかってくる。
……こんな圧倒的有利な状況で更に二人同時攻撃とか……あ~やだやだ。子どもの教育に悪い攻め方だね。
「言いたくないけど、そんな足使いで俺に攻撃届くとでも思ってんのかね?」
俺は空中に止まった二人を見ながらそんなことを呟いた。
まぁ、どんなに数が多かろうと、地力がその程度じゃ、俺の前ではただの的でしかない。
まぁ、【勇気】が発動しなくとも、こんな雑魚には負ける気がしないけどな。……さっさと帰ってシルヴィの晩飯にありつきたいし、無駄な時間はかける必要がないな。
「一人に対して蹴りを一発放たせろ。それだけでいい。【ブースト】攻撃力8倍!」
その言葉で、自分の力がみなぎっていくのを感じ、男の一人に狙いを定め、そのふくよかなお腹に強烈な蹴りを放つ。
直後、時が動きだし、蹴られた男は壁に激突し、気を失ってしまった。
狙っていた男がその場からいなくなったことで、攻撃が外れた男は仲間の惨状に口を開いて呆けていた。
「お……お前! 兄貴に何をしやがった!」
ナイフで再び、襲いかかってくるそいつが、なんか言ってるのが聞こえたが、タッチパネルのアラートがうるさくてよく聞いていなかった。
『その威力だとそっちの男は死んじゃうよ!』
文字ではなく、声で聞こえてきた女神の声で反応が遅れたが、ナイフによる攻撃はしっかりと避けた。だが、放とうとしていた蹴りは躊躇したことで放つことは出来なかった。
俺はとりあえず攻撃力を下げることにした。
こんな変態を殺して罪に問われるのも嫌だったし、子どもの前で人を殺すのは教育上よろしくない。
【ブースト】の威力を4倍に落とし、男の横腹を蹴り抜くと、男はよろめいて後退りした。
どうやら、今のは耐えられたらしい。さすがに踏み込みを全然していない蹴りなんかで倒せる訳ないか。
しかし、もう一発渾身の蹴りを放とうとした瞬間、情けない声がきこえてきた。
発声源を見てみると顔を真っ青にした男がナイフを手から落とした。男は俺の顔を怯えたような目で見ると、自分から尻餅をつき、手を動かし後退りしていた。
「た……助けてくれ! 俺はあの男に脅されてただけなんだ!」
後ろが壁になっているせいでもう逃げられないと悟ると、男は命乞いまでし始めた。
「……二度とこの子の前に顔を見せるな。次は死を覚悟してもらうぞ!」
睨みをきかせながら、その男に向かって言うと、男は恐怖に染まった顔を何度も縦に振って、気絶している変態男を放置してどっかに行ってしまった。
男たちなんてどうでも良かったし、これ以上面倒事に付き合うつもりはなかったので、俺はさっさとその場を離れた。




