48-17
初めて会ったあの日、私が彼に抱いた印象はそこら辺に生えている草と大差無かった。
どこにでもいる人間。自分と同じで神の気まぐれによって、眷族となった幸運な人間だった。
だが、自分の役目を果たす為の駒としてなら、いくらか使い道はあると思った。
だから、彼の魔法にかかった瞬間、私は自分の手足が自分の意思でうまく動かせない感覚に戸惑った。ただの雑魚だと思えば、精神支配系の魔法を使う眷族。
自分が取った失態に、苛立ちがおさまらない。
これからどんな命令をされようと、自分は彼に逆らえない。
いったいどんな無理難題を命令されるのか不安に苛まれていた私に、彼は命令を下した。
『皆と仲良くしよ』
それが最初で最後の命令だった。
◆ ◆ ◆
優真はフィールドの地面を踏みしめ、鞘を左手で握る。周りは騒がしい筈なのに、目の前にいる少女以外に目がいかない。
勝手に巻き込み、自分のせいで人生を狂わせてしまった少女。
自分の浅はかな行動のせいで、縛りつけてしまった少女。
優真は思う。
もしあそこで、自分が魔法を彼女に使用していなかったら?
もしあそこで、彼女をガイベラスの鎖から守ってあげなかったら?
きっと、今の関係にはなっていなかっただろう。
だが、あの時取った自分の行動を、優真は後悔していない。
彼女のサポートがあったから、あの作戦はうまくいき、そもそも魔法をかけていなければ、彼女は一人で突っ込み、死体となって再会していたことだろう。
彼女を守ったからこそ、彼女は森で万里華とホムラを守ってくれた。
だから、優真はメイデンと戦うことを選んだ。
処刑人としての彼女を殺すために、彼女と戦うことを選んだ。
「……ご主人様……一生に一度のわがまま……聞いてくれる?」
「なんだ?」
周りが騒がしいというのに、メイデンの張りのない声は一言一句聞き逃すことが無かった。
そして、優真の短い返答に、メイデンはその無表情の仮面を少し赤くして伝えた。
「……私がご主人様に勝ったら……ご主人様の愛を……私にちょうだい?」
その言葉に、優真は驚いたような顔を向け、何かを言おうとして、やめた。自分の言おうとしていた言葉は、彼女への返答として相応しくない。
だから、優真は少しの間を要して答える。
「……わかった。だが!! 俺が勝ったらお前をもらう……メイデンさんのこれから先の人生を……俺に寄越せ!!」
そして直後に鳴り響く試合開始の合図。
二人は地面を蹴り、剣を交わらせた。




