48-16
「ファルナちゃんは大丈夫なの!?」
控え室に戻った優真達にそう声をかけたのは、駆け寄ってきた万里華だった。他の皆も、ファルナのことが心配なのかすぐに駆け寄ってくる。一人を除いて。
「ユーマさん! ミハエラさんの指示でこのベンチに大きいタオルを敷いておきました! 他に私が出来ることはありますか!」
シルヴィの声を聞き、優真は彼女が準備した場所にファルナを寝かせる。
ファルナの状態は出血がおさまっただけで、危険な状態にあることは変わらない。
すぐにイアロが朱雀の姿になって治療にあたるが、簡単に治る傷じゃないということくらい、優真にもわかった。
だが、優真はここに居たかった。ファルナの傍についていてあげたかった。
しかし、それは許されない。
スタジアムの画面に二本の剣を携えたメイド服の少女が映る。あっちは準備万端のようだ。
だが、優真はそっちに行くのを躊躇っていた。それを彼の幼なじみは許さなかった。
「優真! ここに優真が出来ることはないよ!」
万里華の言葉は、自分でもわかっている言葉だった。それだけに、自分の中で反抗する言葉が浮かんでくる。だが、それを言う前に、万里華は発言を続けた。
「ファルナちゃんはホムラちゃんを生き返らせたくてここまで頑張ってきたんだよ! それを不意にする理由としてファルナちゃんを使わないで!! もし、そのつもりなら、いくら優真でも怒るからね!」
その言葉に、優真は何も言えなくなった。
そういうつもりではなかったが、自分がしようとしていた発言は、まさに彼女が言ったとおりのものだった。
ファルナをちゃんとした場所で治療にあたらせたい。本拠で治療すれば、どうにかなるかもしれないと思っていた。それは、メイデンとの試合より優先すべき事柄だと、勝手に思っていた。
「……ごめん……行ってくる……」
悔しそうに謝り、フィールドに繋がる通路へと足を踏み出した瞬間、優真の耳にか細い声が聞こえた。
「……お兄ぃ……さん」
すぐに振り返り、優真はファルナの傍にいく。そこには、細く目を開けているファルナがいた。
「ファルナ! ……良かった……意識、戻ったんだな……」
優真は安堵したようにそう言うが、イアロの炎で焼かれているファルナは、儚げな笑顔を向けて、たった一言伝えることしかしなかった。
「……頑張ってね……」
そう言った瞬間、ファルナは再び目を閉じた。
その瞬間、優真は色々と言葉を言いたくなったが、その全てを飲み込んで、たった一言だけ、彼女に向かって伝える。
「行ってくる」
覚悟を決めた優真はそう言うと、フィールドへと通ずる道を歩いた。




