48-15
カリュアドスは優真の方へ歩み寄り、立ち止まって頭を深々と下げた。そして、頭を上げた彼は優真の目を真っ直ぐ見た。
「申し訳ない。私も本当はここまでする気はありませんでした。何を言っても言い訳にしかなりませんが、今から言うことは私の本意です。彼女は強かった。あれ以上戦いを引き延ばせば、私が負ける可能性は充分にあった。だから、彼女に最大の敬意を払い、手加減だけはしませんでした」
その真剣な瞳に、優真は何も言えなかった。今回の戦いにおいて、彼に非はない。
それは、控え室にいた優真が一番わかっていたことだ。
鉄球が落とされる直前、ファルナはカリュアドス相手にこう言った。
『皆は……ここまで……頑張った……! だから僕は……絶対降伏しない……っ! ここで降伏して……皆に会ったら……皆優しいから……きっと……頑張ったねって言われちゃう……でも、何もしてない……僕は何も頑張ってない……だから……例えここで死ぬんだとしても……僕は! 絶対に降伏を認めない!!』
ファルナは最後の最後まで諦めなかった。俺の絶対に無事な状態で帰ってこいという言葉を無視して、彼女はそんなことを言ったのだ。
だが、彼女も悪くない。
一番悪いのは俺だ。
こうなる可能性があるとわかっていた。
麒麟様の元次期眷族候補で、白虎の力が使えるからと言っても、彼女はまだ子ども。
何百年も生き、敗けたことすらないというこの男相手に勝てる方がおかしい。
むしろ、彼は意図的にファルナを生かそうとしてくれた。
もし、炎神の眷族達のように、相手を殺すような奴らが相手だった場合、ファルナは間違いなく死んでいた。
そういう大会だとわかっていながら、俺は彼女をこの大会に出してしまったのだ。
全て……俺が悪い。
「おじさん!!」
足元にいるイアロの声で、俺は意識が現実に戻った。振り返ると、炎の消えたファルナとこちらを見上げているイアロの姿が目に映った。
「お願いおじさん!! ボクじゃファルナちゃんは運べないんです! ひ弱なボクじゃ……」
涙が目にたまっている彼の姿を見て、今は反省している場合じゃないと自分に言い聞かせ、片膝をついてイアロの頭を撫でた。
「大丈夫! イアロはイアロに出来ることをすればいい。出来ないことは俺達大人が代わりにやってやるさ。だから後は任せろ!」
未だに目を覚まさないファルナの状態を見て、俺は彼女をお姫様抱っこの要領で抱き上げ、控え室の方へと戻った。




