48-14
ファルナが人間の姿で鋭く尖った爪による攻撃を仕掛けた。だが、カリュアドスはそれを跳躍でかわす。しかし、彼がフィールドに降り立つことはなかった。
彼は空中に立っていた。
その足下には黒い足場が形成されていた。
そこからフィールド全体を見下ろすカリュアドスは、こちらを見上げるファルナに向けて指を鳴らした。
それを見たファルナは、急いで横に避けるが、その直後に彼女は悲鳴を上げた。
鋭く尖った1メートル程の細い針がファルナの体にいくつも刺さり、血を滴らせる。
腕に、足に、横腹にいくつもそれが刺さったファルナは、体を動かせないでいた。しかし、例え彼女がそれを避けていようと結果は変わらなかっただろう。
彼女の周りだけではなく、フィールド全体に砂鉄で出来た針が立っている。
急所を貫かないように細く鋭い形状になった針。それを回避するには、カリュアドスのように上へと逃げる必要があった。しかし、これまでのカリュアドスは、地面から上へと向かう軌道で砂鉄を飛ばしていた為、ファルナは横へと誘導されたのだ。
本来であれば、ここでトドメの一撃を繰り出し、相手を重傷にするのが、過去のカリュアドスが行ってきたやり方だ。
その場合、どんなに治療しても数日は目覚めない。
優真達と友好関係にあるカリュアドスとしては、そこまでして相手の機嫌を損ねるような真似はしたくなかった。
だから、彼はファルナに聞いた。
「貴女の負けです。おとなしく敗北を認めていただきたい。さもなくば、私はこの鉄球を貴女にぶつけなくてはなりません」
これを彼女が受け入れてくれれば、全てが丸くおさまり、1対1で大将戦が行われる。
だが、カリュアドスは彼女の答えを聞いた瞬間、顔をしかめた。そして、目を伏せた彼は、ファルナに告げた。
「……それが貴女の意思だというのであれば、私も全力でやらねば失礼にあたりますね」
その言葉を言い終えるとカリュアドスは彼女に向かって鉄球を落とした。端から見れば、たいしたことのないようにも見えるその一撃は、フィールドに鉄球を中心とした亀裂を作る程の威力。それがファルナに向かって落とされた。
これにより、カリュアドスは更に連勝記録を延ばした。
◆ ◆ ◆
「ファルナ!!!」
イアロを片腕で抱いていた優真は、フィールドを駆ける。
イアロを下ろし、赤くなったファルナの元に駆け寄った優真は彼女の名前を何度も呼ぶ。だが、彼女は反応しない。
返事をすることも、体を動かすこともない。体中が赤く彩られ、その白い髪にも赤く滲んだような痕がある。
だが、息はあった。脈も弱いが確かにあった。
それを知った優真は、隣で朱雀の姿になったイアロに頼むと一言伝えた。そして、ファルナの体は赤い炎に包まれた。
「おじさん、ファルナちゃんはすごく危ない状態だから、まだ動かすのは待ってほしいです! ここで簡易的な応急措置だけやって、おじさんにあっちまで運んでもらってから治療するです!」
「わかった。要するに話す時間くらいはあるんだな?」
イアロにそう聞いた優真は、彼から返事を聞く前に立ち上がり、フィールドの上に降り立ったカリュアドスへと目を向けた。




