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「少し痛いかもしれませんが、死にはしません。殺すのは好きではありませんので……」
哀しそうな表情で持っている棒を握りしめたカリュアドスは、神器メイテオールを恐怖で怯えているファルナにぶつけようとした。
しかし、その直前で結界に衝撃が走った。その事象に、カリュアドスは腕を止め、何が起こったのかを確認した。
そして、一人の人物がカリュアドスの視界に映りこむ。
そこには、結界に拳をぶつけたままの優真が立っていた。
『ユウマ選手~! いくら仲間が心配だからって結界を殴るのはやめてくださ~い! その結界は創世神のお三方が設置してくださったものですからそう簡単には壊れませんよ~!』
「……すまない、居てもたってもいられなくなって、つい……」
天使クレエラに素直な謝罪を返した優真は、フィールド内にいるファルナの方を向いた。彼女も優真の方に驚いたような表情を向けていた。
そんな彼女に、優真は微笑みかけ、そのまま戻っていった。
◆ ◆ ◆
「……お兄……さん?」
優真のとった行動の意図が、ファルナにはまったく理解出来なかった。
何かの合図という訳ではない。勝つ方法を教えてくれた訳ではない。
では彼はいったい何をしに来たのだろう?
驚いた拍子に神獣化が解けてしまう。そして、へたりこんだファルナは、優真が伝えたかったことを必死に探る。
だが、たったひとつだけわかった。
どんな時であっても、絶対絶命の状況にあっても、彼は自分を助けてくれた。何を要求するでもなく、それが当然であるかのように助けてくれる。
なら、何を怖がる必要があるのだろうか?
例え自分がまた拐われそうになったとしても、きっと助けてくれる。あの狭い入れ物に入れられたとしても、きっと助けてくれる。
もう……自分は一人なんかじゃない。
「……僕は……バカだ……っ! お兄さんといっぱいいっぱい思い出を作って、シェスカといっぱいいっぱい遊んだのに……昔の嫌なことばっかり思い出して……」
溢れた涙を腕で拭い、ファルナは立ち上がる。その行動に、カリュアドスが感心したような顔を向ける。
「……もう、大丈夫だよ、お兄さん! あの日、怖いことがたくさんあった……お母さんやお父さんにも会えなかった……でも、あの日があったから、僕はお兄さんやシェスカと再会できた! いっぱいの大好きな人達に出会えた! もう僕は一人じゃない! だからもう! お前なんか怖くない!!」




