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目を閉じていたカリュアドスは、通路から現れた存在に気付き、満足気に口元を緩めた。
「やはり貴女がいらしてくださいましたか。お久しぶりですね、ファルナ嬢」
目をゆっくりと開いたカリュアドスを見て、ファルナは息を飲む。
見間違いではなかった。人違いであって欲しかった。
「……なんでここにもいるの……?」
自分の幸せを打ち砕いた人物との再会にファルナは声を震わせながら、そう呟いた。
◆ ◆ ◆
今でもあの時のことは鮮明に覚えている。大海原で、家族の元に帰れると思っていた僕を襲ったあの人達の中に、ものすごく強い人がいた。
またあの生活に戻るのが嫌で神獣化まで使用したのに、僕をあっさり負かした銀髪の男。
忘れる訳がない。忘れられる筈がない。
この人がいなければ、僕は家族と再会できたかもしれない!!
◆ ◆ ◆
試合開始の鐘の音が二人の耳に届く。しかし、二人は動かない。カリュアドスは静かに一礼し、ファルナはわなわなと震えている。
「その節は貴女に申し訳ないことをしてしまいましたね。しかし、私にもやらなくてはならない理由があった。それだけは理解していただきたいのですが……聞く耳持たずですか……」
怒りの波動を感じ、ファルナから凄まじいオーラが放出される。凄まじいオーラに、並みの眷族であればしり込みしていたことだろう。しかし、カリュアドスは動じない。
そして、ファルナの神獣化が始まる。
数秒後に現れた白き猛虎。それを見ても、カリュアドスはポーカーフェイスを崩さない。
「貴女とこうしてまた顔を合わせることになろうとは……いやはや、世界とは広いように見えて案外狭いものですな」
笑みを浮かべながらそう話しかけるが、ファルナに話し合う意思はない。彼女の怒りをカリュアドスは肌で感じながら、未だに動く気配を見せない。
そして、ファルナが地を蹴る。
目で追うことなど不可能とも言えるような速さ。
そんな彼女の爪がカリュアドスに届くことはなかった。
いつの間にか地面に寝転がっている自分の状況に、ファルナの頭が追い付かない。
だが、カリュアドスは先程の場所で自分の姿を見るだけで何もしてこない。
「前にも言ったはずですよ? 獰猛な姿となっても、冷静さをかき、真っ正直に突っ込んでくるような行動に、恐怖など感じません。……慈悲の心も、ですがね……」
そう言いながら、カリュアドスは指を鳴らす。
そして、ファルナの体から鮮血が舞った。
この対戦カードを作った理由は、意外と高性能なウィルの弱点をつけるドルチェをウィルに当てたかったからではなく、この組み合わせを作りたかったからです。




