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『あなたに見つけられて、あの子は運がいいですね。さて……どうしますか?』
(い……行きたくね~。でも、行くっきゃないのか。さて……どうしますか? の前に書かれてた文字が、俺の逃げ場をなくしてるよね! ……いい加減覚悟を決めるとするか)
「行かないといけないってんなら、行ってやるさ」
そうぼやいた俺はフードを被った子どもを蹴ろうとしている男に、あえて何もせず、攻撃対象であった子どもを抱き上げて、その場を移動する。
『【勇気】の効果が終了します』
タッチパネルからのアナウンスが鳴り、【勇気】の効果が切れ、時が動き出す。
「はっ?」
目の前からいきなり子どもがいなくなったからか素っ頓狂な声を上げ、大振りの蹴りを空振りさせ、男は尻餅をついた。
「おい! ガキは何処へ行った!」
「し……知らねぇよ! お前も見ただろ! 急に消えたんだよ! ……くそっ! 何処行きやがったあのくそガキ!」
尻餅をついた男は辺りを見回すとようやく俺の存在に気付いたらしい。
ちなみに、お姫様抱っこの状態で抱えている子どもは、何が起こったのかわからないからか、どうやら混乱しているようだ。
「……おい、そこのお前! 腕に抱いているそのガキをこっちに寄越せ! そいつに俺たちは用があんだ!」
「いやいや、せっかく助けた子をお前たちに渡すとか、そんな馬鹿みたいなことやる訳ないじゃん」
俺がそう返すと、男は怒りを露にした。
「あ? そいつはな、俺たちの縄張りで勝手にスリをはたらいたくそガキだぞ! そいつには、俺たちがたっぷりと教育してやんだよ!」
「……教育ってのは、暴力的な方? それとも教育的な方?」
「性的な方に決まってんだろ!」
……うわ~、やべぇ奴だ。
そんな、さも当然なこと、みたいな顔で言われて素直に渡すと思ってんのかね? もうちょい言い訳とかに頭使えよ。このノウタリン。
「……なぁ、君はこの人たちの元へ行きたい?」
俺がそう聞くと、灰色のフードを頭から被った子は首を横に振った。
この子が何をやったかは、この際後回しでいい。
嫌がってる子を、こんな変態に渡す訳にはいかない。
守る理由はそれだけで充分だ。
「悪いな。この子も嫌がってるみたいだし、お互い怪我をしない内に、今日はこの辺で終わろうぜ。あんたらも、痛いのやだろ?」
「ふざけんなよ手前! 怪我するのは手前だけだよ」
そう言って男は、ナイフを取り出してきた。
「…………おいおい、武器は反則だろ?」




