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「みなさんこんばんは」
テレビは、アナログ時代のテレビにもかかわらず、綺麗な画面の中で、いつも見ているニュースキャスターのお姉さんが、挨拶をしてくる。
いや、地デジを見る方法があるのは、知ってるんだが、そもそもこの空間には、アンテナやケーブルすらない。
「そういえばこのお姉さん、結婚したらしいね~。寿退職するらしいし、幸せになっていい子どもを産んでほしいね~」
隣で一緒にテレビを見ている少女は、ニュースを見るよう促したにも拘わらず、ずっとこんな感じで話しかけてくる。見て欲しいのか、見てほしくないのかどっちなんだろうね。
やがて10分くらいすると、少女が「始まったね」と呟いた。
「次のニュースです。静岡市の公園へ行く途中の横断歩道で園児たちの列に居眠り運転の車が突っ込み、実習に来ていた大学生の一人が園児を庇い、命を落としました」
そのニュースが俺のことだということはすぐにわかった。
そのニュースの中で事故の経緯と、状況の説明をしてくれる。
庇った俺は救急車がくる前に死んで、突き飛ばされた園児3名は、かすり傷程度だったらしい。
その後、ニュースでは近所の人の声を聞かせてきた。
全然話したことも見たこともない人が、俺のことをいい子だったと言ってくる。
「彼には本当に感謝してもしきれません。あの人が、子どもたちを見殺しにしなかったからこそ、この子たちはかすり傷程度で済みました」
そう言ったのは、俺が咄嗟に突き飛ばした子どもの母親だった。
その日の朝、子どもを連れてこられた際に、挨拶したんだけど、無視してきたから印象に残ってる。
この人はああ言ってるが、あんまり深く考えての行動じゃなかったし、それが成功するなんて保障はどこにもなかった。下手したらただの無駄死にーー
「でも君が助けなかったら、あの子たちは間違いなく死んでいただろうね。……君はさ、なんであの時、子どもたちを助けようと思ったんだい? 行けば死ぬって分かってただろうに」
「……俺にもよくわかりません。………ただ、あそこで見捨てたら、父さんに天国で怒られるような気がしたんです」
あの時、そこまで考えていた訳ではなかったが、俺は要するに、死んだ父さんに誇れるように生きていきたかっただけだ。
「なるほどね。それならこれを渡してもいいかな」
少女は満足そうに頷くと胸に挟んでいた手紙を3つ取り出した。
「君に3人から、手紙を受け取っている。1つは、君の残った家族から。1つはあの日、あの場にいた君の幼なじみから。そして最後の1つは君の父親からだ」