48-8
「……やっぱり初見殺しって怖いわ……」
控え室で試合光景を映していた画面を見て、優真はその言葉を発した。
優真がドルチェをウィルに当てた理由は、彼女の攻撃力を信頼していたからではない。今までのやり取りで、絶対ドルチェの特殊能力に引っ掛かるとわかっていたからだ。
ドルチェの特殊能力は【睡眠】、半径1メートルという限られた範囲内にいる相手を、自分の意思で10時間強制的に眠らせる能力だ。
しかし、その対策も簡単で、1メートルの範囲内に近付かなければかかりはしない。
だからこそ、タイミングは重要だった。
ドルチェは一見おばかそうに見えて、実はかなりの演技派だ。実は本当に何も考えていないんじゃないかと未だに思ってしまうこともままあるが、それでも彼女の演技力は本物だ。
まるで我慢できなくなった子どものような素振りで神獣化し、相手の中から完全に状態異常という選択肢を消した後に眠りの世界へと誘う。
事前の打ち合わせとまったく違う行動を取る彼女にひやひやしたが、彼女は見事注文に応えてくれた。
「次は俺達の番だな」
「うん!」
優真の言葉に頷くファルナは、どことなく張り切っているように見えた。
◆ ◆ ◆
「おやおや、相手の全てが知れていない状態で不用意に突っ込むなと言い聞かせていたのですがねぇ……」
執事服の壮年の男性は画面に映る爆睡中のウィルを見て、溜め息混じりにそうぼやいた。
「……別に問題ない……あの子は負け換算……ご主人様ならあの子に勝てる相手を用意してくると思ってた……」
なぜかメイド服を着ている銀髪の少女は、表情を一切動かさずにぼそぼそと張りのない声で答える。
「さようで。……ではどうなさいますか? 我々は1敗してしまいましたし、メイデン様が出ますか?」
「……問題ないって言った。……だって貴方は絶対勝ってきてくれるでしょう?」
その眼差しは、信頼というものを一切感じさせない眼差しでありながら、カリュアドスはまるで面白いものでも見ているかのように笑顔を絶やさない。
「おやおや、これは責任重大ですね~」
そう言い終えると、カリュアドスは急に真面目な表情を見せた。
「しかしながら、ドルチェ殿のように手の内が全部わかっていない可能性が高い以上、私も慎重に行かねばなりませんね……ですが、貴女が勝利を望むというのであれば、私は貴女に勝利の二文字を献上いたしましょう」
白い手袋をはめながらそう言ったカリュアドスは、フィールドに繋がる通路へと歩を進め始めた。




