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それは、相手が手の内を見せきっていないからだ。
優真の説明を受けていたドルチェは、相手が太剣を使った剣士だという情報が頭に入っている。そのうえ、今までの試合を見て、防御力と耐久力が高めだと感じた。
重い一撃をかまして、さっさと終わらせるドルチェには、かなり厳しい相手だった。しかも、最初に放った一撃は【睡眠】の効果で威力がはね上がった攻撃。今更ながら、さっさと【神獣化】して終わらせれば良かったと後悔した。
「あ~もうっ!! めんどくさい!! おじちゃんからいっぱい話聞いたけどやっぱり強い攻撃した方が強いもん! 考えるの頭痛くなっちゃうから面白くない!!」
後手に回っているドルチェがいきなり髪の毛をかきむしりながら喚き始めたことで、ウィルは攻撃の手を止めてしまった。その表情は驚きで目を見開いている。
「要するに勝てばいいんでしょ? なら簡単じゃん」
そう言いながら、彼女の体が光を帯びる。そして、徐々に大きくなっていき、1体の竜がそのフィールドに降り立った。
「ようやくその姿になったな? これでもっと試合が楽しくなるな!!」
青龍の姿となったドルチェを見ても、ウィルの表情には怯えが見受けられなかった。それどころか楽しそうな顔を見せている。
「もうおっちゃんの攻撃なんか効かないもんね~!!」
尾をくねらせて鞭のようにしなった攻撃。最初の一撃よりも強力な一撃が炸裂する。腹部を強打されたウィルはその一撃に歯を食い縛る。
そして、地面に抉られた跡を残したウィルは、なんとか倒れずに済んだ。そんな彼の手には太剣が握られている。
どうやら、それでダメージを軽減したようだ。
「気持ちいいぜ~くそがき~! たまんねぇ~な~!」
ダメージが残っているであろう彼は、すぐさま太剣を構え直し、ドルチェに向かって正面から向かっていった。その速さは、背中に剣を担いでいた先程よりも速い。
だが、ドルチェにとって速さは何の意味も持たない。
ウィルは知らないのだ。彼女がもう一つ特殊能力を持っているということを。
「眠れ」
その一言で、ウィルの意識は急激に揺さぶられ、意識を保つことが難しくなっていく。
「くそっ……またかよ……」
その呟きを残し、ウィルは地面に倒れた。




