48-5
ウィルの手に武器の類いは握られていない。そして、それはドルチェも同様だった。彼女は自信満々の表情で手を腰につけて仁王立ちしている。
そして、時間が刻一刻と流れていき、スタジアム全体に試合開始を報せる鐘の音が響き渡る。
直後に、互いの拳がフィールドの中心部でかち合う。そして、愉しそうな笑みを浮かべたドルチェはその小柄な体格を活かして体をひねって相手の腹部を左の拳でおもいっきり殴った。
その体格からは想像も出来ないような威力の攻撃をもらい、ウィルの体はあっさりとフィールドを囲む結界に叩きつけられた。
「ニッシッシ~。あたち相手に真っ向勝負なんてダメだよ~! だってあたち、ちょ~強いもん!!」
フィールドの中心地に立つのはドルチェしかいない。
そしてそれは、優真の狙い通りの展開だった。ウィルと一度剣を交えた彼は知っている。彼は避けることをあまりしようとしない。受けたら死ぬという攻撃は直感で避けているような印象を抱いたが、それ以外は基本的に真っ向から受ける。
そのタフネスさには素直に称賛するが、要するに一撃一撃が最強クラスの攻撃力を誇るドルチェとは相性が悪い。
そして、ドルチェの実力はまだまだこんなもんじゃない。相手を殺さない範囲でなら全力を出していいという指示を出した以上、ドルチェの負ける確率はかなり低くなる。
「……ただまぁ……今ので負けを認めるような奴じゃないか……」
優真が画面を見ながらそうぼやくと、煙の中から愉悦に浸っているような表情を見せるウィルの姿が画面に映った。
気持ちいい……痛みが、攻撃で受ける痛みがいつもより気持ちいい。
やっぱり間違いじゃなかった。見た目にそぐわないその威力。当たりも当たり、大当たりだ!!
口から血を出すなんて久しぶりだ。……今までの奴は全員カリュアドスさんのビンタにも及ばない威力の攻撃しかしやがらねぇ。つまんねぇ攻撃しかしてこなかった。
やっぱり眷族になって良かった。つえぇ奴と戦える。これ程の幸せはねぇよ。
感謝するぜ神さんよ~! 俺の為につえぇ師匠とつえぇ対戦相手を用意してくれてよぉ~!!
「マジありがてぇ!!! ここで勝てばもっとつえぇ奴がいるんだよなぁあ!! くっっっそ楽しみじゃねぇかよぉぉお!!」
血を腕で拭ったウィルは愉しそうな表情を浮かべたまま、地面を蹴った。その速さは先程よりも格段に速く、ドルチェのスピードを凌駕していた。
しかしドルチェは突っ込んでくるウィル相手に冷静だった。
「ファルナちゃんの方が速いね!」
そう言いながら、跳び上がったドルチェはウィルの頭目掛けておもいっきり踵を叩きつけた。




