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「……嫌い?」
彼女の話に聞き入っていた俺の耳に信じられない言葉が届いた。
「そう。彼女が優真君をどう思ってるかなんて関係無かった。眷族が欲しい私にとって、子どもが大っ嫌いな彼女は必要無い人材だった」
「万里華が……子どもを嫌い? んな馬鹿な!! 万里華は俺と一緒に保育士を目指そうとしていたんだぞ! 苦手な勉強を頑張ってまで万里華は保育士を目指した! 給料が低く、子どもの世話という大変な職業を子どもが嫌いな万里華が……なんで?」
言ってて自分でもわかってしまった。万里華は子どもの頃に虐められていたと、先程教えられた。そんな彼女が子どもを好きと思えなくても不思議ではない。そして、いつも俺の傍に彼女は居た。
「優真君……彼女は優真君の傍に居たかった。辛い時も、楽しい時も、優真君と一緒に居たいと思っていた。今の関係が壊れることを恐れて告白は出来なかった。だからこそ、1分1秒でも君の傍に居たかったのさ」
「……要するに……俺が保育士を目指したから、万里華は保育士を選ぶという選択肢を迫られた訳か……」
「嫌なら拒んでいた。でも、優真君を失えば自分には生きる必要性を見出だせないと言っていた彼女にとって、それ以外の選択肢は無かったんだろうね~だから手紙を回収しに来た私の服を絶対に離さないという行動を取ったんだろうね」
「……万里華はそこまで……俺のことを好いてくれていたのか……」
「まったく……困った子だよ。彼女を無理矢理引き剥がして怪我なんかさせたら優真君に嫌われるし……本当に面倒だったよ……それで条件を出した。という訳で、君にはこれからもっともっと彼女のことを知ってもらう。当然、君がこれを見てどういう選択を取るのかはわからない。彼女を生かすも殺すも君の自由だからね! さて、それじゃあ、本番を始めようか!」
そう言った女神様が再び指を鳴らすと、目の前の光景が闇に飲まれていった。
◆ ◆ ◆
誰にだって人に言いたくないことはある。
私も、優真にだけは知られたくない秘密はある。ご飯も喉を通らない私の元に現れた女神様。そんな彼女に、私は優真の元に連れていってほしいと懇願した。何度も何度も願うけど、女神様は首を縦に振らなかった。
子どもを嫌いだと感じている私に、優真と同じ場所に立つ資格はないとはっきり言われてしまった。
だけど、それで諦めるなんて出来なかったから、私は女神様が嫌がるなか、彼女にしがみついてでも行きたいと望んだ。
そんな女神様が、諦めるように出した条件。
それが、優真に自分の全てをさらし、その上で、優真が心の底から私を望めば、優真と同じ眷族にするというものだった。
婚約や結婚をしていても、彼の子どもを身籠っていてもそんなのは関係無く、1年以内にそれを実行出来なければ、私のことを知っている者達全員から、私の記憶を消し、私の存在を消滅させられる。
その条件を私は飲んだ。




