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47-6


 場面は再び転換される。

 そこに映し出された光景はまたもや二つで、右は炎で燃える家と表にできた人だかり、左は病室のベッドで頭に包帯を巻いて涙を流す俺の姿だった。

 その光景がいつのものかなんてすぐにわかってしまった。

「懐かしいね。優真のお父さんが亡くなった時のことだね」

 その言葉を聞き、俺は息を吐いた。あの時の悲しみが自分の心を激しく動揺させる。辛かったことを鮮明に思い出して、自分の心を落ち着けるので精一杯になってしまう。

 だから、彼女の言葉に反応が遅れてしまった。

「私はこの日から優真が心の底から好きになったんだぁ~」

「…………はい?」

「これで優真は私と一緒。共にお父さんが居なくなって……あぁ、これって運命なんだって思っちゃったんだ……」

「…………」

「でも、優真はこの日から心を閉ざしたんだよね……話し掛けても返事はしないし、しても素っ気ないものばかりだし、ご飯に誘ってくれることもなくなった。……優真は私を見てた? あの時の私はお母さんが再婚に失敗して更に荒れてて傷を隠す為に絆創膏や痣ばっかりだったんだよ? お父さんが居ないことを馬鹿にされて……友達だと思ってた人にも虐められていたんだよ?」

「……知らなかった……」

「でも、学校に行ったんだ……そこだけが唯一優真と過ごすことができる場所だから……例え心を閉ざしていたとしても、優真しかいなかったの……だから中学生になったらまずは人との接し方を学んで、優真が前みたいに話し掛けてくれるような人になろうと思った……そしたらどうでもいい人達ばっかり私の周りに集まって……結局あの日まで優真が来ることは無かった」

 チビ万里華がそう言うと、空間が再び揺れた。


 場面は再び転換した。

 そこに写し出された光景は、携帯電話を持った俺が万里華の手を引っ張って外に連れ出そうとしている光景だった。

「……あの時はありがとね。お陰でお母さんも私を叩くことが駄目なことだったんだってわかったってさ……あの後優真ん家に行っておばさんが優しく私を抱きしめてくれて……暖かいお風呂にいれてもらったし、優真と一緒の部屋に寝て……これからは俺が守ってやるって言ってくれた……あの時は本当に嬉しかった……」

 そう言った彼女の表情は微笑んでいた。

 だが、俺には彼女からありがとうと言われる資格なんてない。


 あの時の俺には、ただ見ていることしか出来なかった。

 大きな物音がして、開いていたドアの隙間からそっと見れば、髪を引っ張られて引きずられていく万里華の姿が映って、それで警察を呼ぼうと電話を出したら大きな音が耳に届いたんだ。それで家に入った。

 だから、俺は動画も写真も撮ってない。

 後先考えずに、持っている携帯をあたかもさっきまで使っていたかのように見せてでまかせを言っただけだ。

「いいんだよ」

 隣の万里華がそう呟いた。

 見れば、彼女は中学生の姿で、俺にむかって微笑んでいた。

「でまかせでもいいの。咄嗟の行動でもいいの。だって、私にとってあの日の優真は、世界でたった一人のヒーローだったんだもん」

 彼女がそう言った瞬間、俺は心が震え、場面が転換していく中で、一つの大きな決意を心に定め、万里華に体を向けた。


「どんなことがあろうと俺は諦めない。万里華を、消えるという運命から絶対に解き放つ。だから、ヒーローの俺を、信じて待ってろ」

 俺がそう言うと、彼女は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに、涙を見せながら微笑む。

「……待ってるから……」

 彼女はそう言うと、姿を消した。


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