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「これって……」
「優真と初めて会った時だね……」
そう言われて思い出した。万里華が近所に引っ越してきて、それからよく遊ぶようになったことを。
「だが、これを見せられて俺にいったいどうしろと……」
「何か勘違いしてるみたいだけど、ここで優真が出来ることはないよ。優真がやるべきことはここで私と共に私の記憶を見続けること」
「そんな簡単なことでいいのか?」
「簡単? ……確かに今の説明だと簡単に思えるかもしれない。でも、私の本体はこの試練がどういうものか知っていた。それなのに、優真の元から離れようとした。優真にこの試練を受けてもらうだけなのに……変だよね~?」
その話を聞かされ、緩みかけていた俺は気を引き締めなおした。万里華が俺を好いているのは知っている。万里華が、俺の傍にずっと居たいと思っていたから、俺は彼女と婚約した。
そして、彼女なら大抵のことは遠慮しない。
要するに何かあるのだ。彼女がこの試練を拒絶した理由がどこかにあるのだ。
場面が転換される。
全体が回り始めて一つの光景を映し出す。
そこに映し出された光景は二つあり、右は俺達家族と共に笑顔で食事する万里華の姿。そして、左は家で母親から物を投げられる小学校低学年の頃の万里華が映った光景だった。
その姿を見て、俺は驚きが隠せなかった。
虐待されていたということは、実際に目撃したから知っていた。だが、こんな幼い頃から受けていたなんて思いもよらなかった。
「お母さんはね、仕事が大変で、嫌な上司やバツイチという理由で自分を腫れ物のように扱う同僚に囲まれて、帰ったらいつも酒浸りだったんだよ。……わかる? コップって割れてなくても痛いんだよ?」
「……ごめん……」
「謝罪なんて必要ないことはしなくていいよ。むしろ、黙って見てなよ。……あの時は優真が羨ましくてね。妬ましくて……だって優真は私が欲しいものをみんな持ってる。優しい母親と、遊んでくれる父親、そして可愛い妹……優真は私が欲しいものを全部持ってる……羨ましい……ずるい……なんで私ばっかり? ふふ……この辺りから優真を好きな気持ちの裏でこんなことを考えるようになったんだ……」




