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手を離すと万里華は泣き崩れてしまった。ただ泣くだけで、彼女はずっと「ごめん」としか言わなかった。
「神々の余興が終わり、優真君と結婚すれば余計に離れるのが辛くなる。だから彼女は、2月までだったのを今日で終わらせようとした。優真君に自分が隠し続けてきた過去がばれたこの日にね」
その話を聞いた優真は悔しそうな表情を見せるが、すぐにこう訊いた。
「どうしたら万里華が離れないように出来る?」
その言葉を聞いた瞬間、万里華は慌てたように女神を止めようとした。だが、時既に遅しだった。
女神がニヤリと笑う。
「私の試練を受ければいい」
そう言って、子どもを司る女神が指を鳴らす。そして、優真は暗闇の世界へと誘われた。
◆ ◆ ◆
そこは真っ暗な空間だった。全面真っ黒で塗り潰され、自分しかそこには居ない。手もあり、足もある。視界もおそらく良好だと思うし、方向感覚が掴みにくいこと以外はこれといって問題は無い。
「……ここは……どこなんだ?」
「ここは私の記憶の中だよ、優真」
意味がわからず驚いていると、聞き覚えのある声が後ろの方から聞こえてきた。
振り返れば、そこには一人の少女がいた。その少女は幼き見た目で、空間の色と同じ黒髪をツインテールにしたシェスカぐらいの歳の少女。そして、優真はその少女に見覚えがあった。
「……万里華? ……なんかちっこくね?」
「そりゃそうだよ。優真と初めて出会った時と同じ年なんだもん。幼く見えるのも当然だよ~」
「ふ~ん……じゃあチビ万里華はここで何してんだ? 女神様の試練はチビ万里華に勝ったらクリアなのか?」
優真がそう聞くと彼女はクスクスと笑い始めた。
「そうだね。どうやったらクリアになるのか……それは最後までここに居たらわかるんじゃない?」
「そういうもん?」
「そういうもん」
脱出か……はたまた撃退か……何をするかについてまったくわからないのであれば、警戒はしておいた方がいいだろう。
そう考えた俺が全方向を確認している時に異変が起こった。
黒い空間が色を持ち、一つの景色を写し出したのだ。
景色は動かず、まるで写真のようではあったが、立体的なものだった。
そして、一際目立つ存在、家の前に立った若い夫婦と母親に抱かれている赤ん坊。それと、若い夫婦の男性の足に抱きつき、こちらを伺うように見ている幼き俺の姿が写っていた。




