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「……お兄ちゃん? いきなり泣いてどうしたの?」
向かいの席で、シルヴィの作ったシチューを口のまわりにつけながら、シェスカがいきなり聞いてきた。
その言葉で、俺は急いで目尻にたまった涙を指で拭う。
「そんなに美味しくなかったですか!?」
「ち……違う、違う! ちょっと昔のことを思い出して悲しくなっただけだから。シルヴィの手料理は何時もと同じで超うまいって!」
ショックを受けたような声をあげるシルヴィに焦って言い訳をするが、それでもシルヴィの表情は晴れなかった。
「……それなら良かったです。……そうですよね。ユーマさんだって御家族に会えなくて辛いんですよね。すみません、変なこと言っちゃって」
そんな解釈をさせてしまったことに罪悪感を抱きながらも、本当のことを言ったら、シルヴィの性格上、可哀想とか言って憐れまれる気がするから、友達と呼べる存在が全くいなかったことは黙っておこう。
「別に気にしなくていいよ。シルヴィが良くしてくれるから、寂しいなんて全然思ったことないって! こっちこそごめんな、気を使わせちゃって」
「いえ、こちらこそユーマさんがいると毎日が楽しいですよ! それに、ユーマさんがいつも美味しそうに食べてくださるから、ご飯の作りがいがあります!」
「……若いもんはいいね~。でも、人前でいちゃつくのも大概にしときなよ」
シルヴィとそんなやり取りをしていると、シェスカの口周りを拭っていた婆さんがそう言ってきた。
「ちょ……ちょっとおばあちゃん! 何言ってんの!」
シルヴィは顔を真っ赤にして、婆さんに文句を言っているが、俺は愛想笑いしかできない。
……これ、何回言われたっけ? って思うぐらいには言われているからだ。
婆さんこと、シルヴェスタさんは、俺がよく手伝いに行く保育所を管理している人だ。毎日のように顔を合わせれば、こうして俺とシルヴィをからかってくる。
……そりゃ、最初は顔が茹でダコにでもなったかのように真っ赤にしたさ。
ちなみに最近の口癖は、「早くひ孫の顔が見たいの~」である。シルヴィの反応が毎度面白いから、別に構わないんだけどね。
まぁ、こっちとしてはこのまま、シルヴィの面白い反応を見るのもやぶさかではないんだが、今日はそういう訳にもいかないか。
「なぁ婆さん。シルヴィをからかうのはそれくらいにして、そろそろ俺を呼び出した理由を聞かせてくれないか?」
俺がそう言うと、婆さんは顔を真っ赤にしたシルヴィを解放し、俺の方を向いた。
「そうじゃった、そうじゃった。実はお前さんに一つやってもらいたいことがあるんじゃ」




