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ファミルアーテに選ばれた者は、創造神の眷族筆頭キュロスから神器を与えられる。
世界にたった一つしかない自分だけの武器。
だからこそ、イルジョネアもハナが神器を持っていることは知っていた。その能力までは知らないが、以前、ハナ自身がその代償故に二度と使わないと言い張っていた武器だということは知っている。
「嘘でしょ……いえ、ハナ自身がその代償を支払っても勝利を献上したいと思ってるのね。貴女の決めたことだもの。反対も批判もしないわ。でもね……私も負ける訳にはいかないのよ」
一瞬だけ激しい動揺を見せたイルジョネアだったが、それでも彼女の目に敗北の二文字は伺えなかった。
目の前で桃色のオーラを発している少女が強いなんてことは初めて会った時から知っている。なにせ彼女は、大地の女神様の眷族筆頭で、その中でも歴代最強と呼ばれる程の実力者だ。
それに対して自分の主神は、二つのものを司ると言ったって下級神でしかない。
下級神の眷族で彼女や他の者と対等以上で接するには、どうしてもファミルアーテの地位が必要だ。
だから、ここで2連敗なんてあり得ない。
絶対に勝たなくてはならない。
もはや、自分達がこれ以上先に進むことは出来ない。相手の眷族筆頭がかなりの強者であり、更に得体の知れない力が彼の奥底に眠っているのだ。
自分が相手できない今となっては、こっちに勝ち目なんて無い。
イルジョネアが、魔法を放とうとする。
雷の魔法と水の魔法。上級神の眷族、または信仰者しか使えない魔法を祝詞無しで放ち始める。
世界で彼女にしか使えない合成魔法である。
しかし、魔法を放った瞬間、自分の手足が一瞬で地面から急に出現した蔓に巻き付かれる。そして、ハナに向かって放たれた高威力の遠距離攻撃は、ハナの周りを囲んだ蔓によって意図も容易く防がれてしまう。
先程までとは圧倒的に速度が違う。
そして、雰囲気も先程の怒りに任せてのものとは明らかに違った。
(……あれが神器の力? ……いえ、あれだけなら代償なんてある筈無いわね……)
そんなことを考えながら、自分に巻きついた蔓を風魔法の刃で斬っていく。
蔓から解放されたイルジョネアは、奥の手は取っておくべきだと考え、再び合成魔法を放とうとする。しかし、上から風をきる音が聞こえ、急いで発動する魔法を変え、守護の男神の眷族達が得意とするバリアという魔法を発動する。
簡易的な結界が展開され、次の瞬間、バリアに強烈な負荷がかかる。
見ればそこには大きな蔓があり、自分を叩き潰そうとしていた。




