46-11
「……うっわぁ……えげつな……」
勝ったこと事態は素直に喜ばしい筈なのに、今までに見たどの試合よりもそう感じてしまった。
攻撃してくる相手の前で寝始めた時はどうなることかとひやひやしたが、最終的に相手の心を折って、まさかの無血勝利。攻撃方法なんて聞いていなかっただけに、最後のには驚かされた。……というか、未だに能力解かずに寝ているんだが……これってもしかして……。
「……優真君、悪いけど連れ戻してきて……」
「ですよね~」
呆れ顔の女神様にそう返して、俺はスーの回収に向かった。
神獣化したスーを起こして神獣化を解いてもらう。そんな作業に5分かけ、ようやく控え室に連れ帰ると、実況役の天使が次の対戦に移ると宣言していた。もうここまでくればイアロが中堅に出るというのは予想がつく。だが、治癒能力特化のあの子は戦闘能力が極端に低い。
以前、炎の玉を放って蜂を燃やしていたが、それしか戦闘方法がない。そんな子を戦いの舞台に出すのは俺もいい気がしない。
「……でも、もうイアロに出てもらうしか無いんだよなぁ……」
眠ったままのスーチェをおんぶしながら控え室に戻ると、いきなりスタジアム内が騒がしくなった。
急いでフィールドを映している画面に目を向けると、そこには紫色の長髪を後ろで束ねた妖艶な見た目の美女が立っていた。
画面越しでもわかる肌のひりつくような覇気を纏ったオーラ。この前戦ったルキュナとはレベルが違う。
見たことがある訳でも教えられた訳でもない。だが、それでも確信があった。
彼女こそが幻想と夢を司る女神様の眷族筆頭、『幻惑の魔女』と呼ばれた七色の魔法使い。イルジョネア・バウマンであるということに。
「あははっ、追い詰められて切り札を早々に切ってきたか……向こうはこっちの眷族が二人ダウンしているのは知ってるだろうからね。直々に優真君を叩き潰すつもりなんだろう」
「なら、お望み通りに俺が行ってやるさ。イアロにあんな化け物の相手は任せられないからな」
画面を見ていた女神に優真がスーチェをベンチに寝かしながら答える。
「向こうは先鋒戦でおちょくられたと思って本気を出してくるよ? 疲労困憊の優真君では危険な相手だ」
「イアロじゃもっと危険だ。子どもを危険な死地に送り込むのは俺達のやり方じゃないだろ?」
「よくわかってるじゃないか……という訳で頼んだよ……ハナちゃん」
「かしこま!」
子どもを司る女神の言葉に、いつの間にか優真の背後に立っていた少女が元気な声でそう答えると、彼女はそのまま姿を消した。




