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46-9


『さぁ、幻惑と夢を司る女神様の眷族イルロット選手を相手するのは……誰……でしょうか? データに一切無い選手の登場だぁああ!』

 天使の驚きがマイクで伝わり、画面に大きくスーの姿が映り始める。天使の様子を見るにどうやらスーの存在がかなり気になるようだ。

 それはそうだろう。元々出す気のなかった非戦闘員なのだから情報が無いのは当然だ。

「……そういえばさ、カメラの存在が何処にも見当たらないんだけど、あれってどうやって撮ってるの?」

「さぁ?」

 女神様の答えはまったく検討がついていないように思えた。まぁ、フィールド内の映像や音声が控え室では見られるなら不便はない。世界には知らなくていいことがたくさんある。そう思うことにして俺は視線を画面に戻した。


 ◆ ◆ ◆


 いきなり予想外な選手の登場に、イルロットはばれない程度の戸惑いを見せた。

(……あの3人を潰したら終わりだと聞いていたが……戦闘できる者がまだいたのか? ……まぁいいさ。この対戦で来るのは唯一耐えた眷族筆頭って予想だったし、むしろあたいにとっちゃラッキー!)

 意気込むイルロットの耳に試合開始の鐘の音が聞こえる。

 刹那、ドレスがはためき、彼女の周りが紫色に光る。

「ナイトメアドール!!」

 相手を悪夢に引きずり込む彼女の特殊能力【悪夢(ナイトメア)】が炸裂し、微動だにしない少女に襲いかかる。


「やったか!」

 光で辺り一帯が見えなくなるが、すぐにその存在が全員の視界に映り出す。

 背中に巨大な甲羅を乗せ、4足の緑色の太い足を地面につける全長3メートルの亀が少女のいた場所に現れる。

 尾と思われる場所には黒色の蛇が鋭い目を光らせながら自由に動いていた。


「まさか……玄武族? しかもまた【神獣化】持ち? いったいどうなってんだよ……」

 目の前に出現した玄武に、イルロットの表情は驚愕に変わる。上の天使が騒がしいが、それが聞こえなくなるほど、いっぱいいっぱいの状態に陥る。

 なにより驚いたのは、悪夢を見せ、相手を意のままに操るナイトメアドールが効いていないことだ。

 いや、もしかしたら外れたのかもしれないと判断し、再び、ナイトメアドールを放つ。しかも今度のは先程よりもかなり強力な催眠へと誘う。

 だが、スーチェは動こうとしない。避ける姿勢すら見せない。ただ一言彼女は呟いた。

「【防壁の甲(カトルバス)】」

 その瞬間、玄武の姿となった彼女を半球状の透明な壁が囲み、相手の光を防いでみせた。


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