45-14
目の前で倒れている男に、これ以上手は出せない。
例え隙だらけであっても、例え相手がむかつくような奴でも、これ以上手を出せば、地獄に落とされてしまう。
涙を流しながら仲間に抱きつかれるルキュナの姿を見て、深い息を吐く。
「やめだ、やめ! これ以上殴ったっていいことないし、ドエム野郎殴ったってかえって喜ぶだけだしな。今回はキクルに免じて許してやるよ。だが、二度とユリスティナや俺の家族に近付くな。万里華にも謝らなくていいから二度と俺の前に姿を見せるな! わかったな?」
睨みをきかせてそう聞くと、ルキュナは簡単に頷いた。
この程度で怒りがおさまる訳ではないが、これ以上欲を出せば、もっと面倒なことになる。万里華には後で俺から謝罪することにしよう。
通路を抜け、控え室に戻ると、そこには涙を流している金髪碧眼の美少女が立っていた。
てっきり観客席で待っているとばかり思っていたが、後ろにシルヴィ達を引き連れていつの間にかここに来たらしい。
正直合わせる顔がない。
ユリスティナがかかっている試合で、相手にトドメを刺すのを躊躇い、結果は引き分けという形に終わった。
2勝1分が今日の成績。我ながら情けないとは思いつつも、俺はその結果に満足していた。キクルが敗北を認めたからだが、ユリスティナへの接触を禁止させるという目的は完全に叶い、相手を殺さずに済んだ。万里華へ謝らせることが出来ないのはさすがに残念だが、そこまで要求すれば、ルキュナという男は未だに抵抗していたことだろう。
だが、ユリスティナからすれば、満足いかない結果なのだろう。自分のかかった試合でちゃんと勝利を持ってかえってこない。そのうえ、目的だった万里華への謝罪は成されぬまま。
彼女の目には、情けない男に映ったかもしれない。
「ごめんユリスティナ……ちゃんと勝ってやれなくて……」
俺がそう謝ると、まるでダムが決壊したかのようにユリスティナは涙を流し、そのまま抱きついてきた。
唐突な出来事で驚いたものの、なんとかユリスティナの軽い体を受け止める。
「ごめんなさい……本当にごめんなさい……!!」
首に腕を回したユリスティナがなぜか謝ってくる。
「なんでユリスティナが謝ってんだよ……勝てなかった俺が……」
「ユウマ様は何も悪くありません! わたくしが勝手に受けた勝負のせいで……ユウマ様……本当は人を傷つけるのが嫌いだと仰っていらしたのに……わたくしのせいで……何度も何度も辛い表情を見せておられました……」




