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(……強情な奴だ……)
目の前で無防備な姿をさらしているルキュナの姿を見て優真はそんな感想を抱く。
先程から何度も何度も降参を促してきたが、ルキュナはそれを全て無視してくる。しかも、特殊能力発動の素振りを見せる為、二の句を告げる前に攻撃しなくてはならない。
謝る気がないのなんて戦う前からわかっていた。こいつの狙いがなんなのかも検討がつく。
こいつは死を望んでいる。でなければ、自らダメージを受ける真似をする筈がない。
苛立ちが増していくが、相手を怒りのまま殺すことだけはしたくなかった。
子ども達が見ている前で相手を殺すなんてことをしたくない。だから加減をしているというのに、こいつはそれを無下にしやがる。
下手な攻撃じゃ特殊能力の発動を止めることは出来ない。このままじゃ、本気でこいつが死ぬ。
死を覚悟した奴がここまで面倒だとは正直思ってもみなかった。
もちろん、彼を殺さずにこの戦いを終わらせる方法がまだ一つある。それは、優真が敗北を認めること。
しかし、優真はそれをとるくらいなら、ルキュナの命を見捨ててもいいと考えていた。
優真がルキュナをどうやって降参させるかで悩んでいるそんな時だった。
「ユウマちゃんもうやめてっっ!!!」
フィールド外から聞こえた声に優真の耳は反応した。その声と呼び方に優真は覚えがあった。
そちらを見れば、予想通りの人物がフィールドを囲む結界に張り付いていた。
「……キクル……」
コロポックルと呼ばれる種族の少女を見て、優真は今の自分は彼女と敵対しているのだと自分に言い聞かせる。
「お願い……です! これ以上ルキュナ様に痛いことしないでください……です!」
「駄目だ! 降参しないこいつを生かすという選択肢は俺に無い! 大切な人が俺の勝利を信じて待ってくれている。なら、俺は勝利を持ち帰らないといけない!! 今回ばかりは子どもの我が儘でどうこう出来る次元を越えてるんだよ!」
「……ユウマちゃん……ならっ、私が認めるです!!」
「「!?」」
辛そうに発したキクルの言葉に優真だけでなく、倒れて動けないでいるルキュナまでもが驚いた様子を見せる。
「私は大将戦に出る予定です。私が敗北を認めたら2敗で私達の負け……お兄さんのお嫁さんには手を出さないように約束させるですし、天使のお姉ちゃんにも絶対に謝らせるですから!! だからお願い……ルキュナ様を……ルキュナ様を殺さないで……」
地面にポタポタと涙の雫を落としながらそう訴えかけてくるキクル。その言葉に優真が何か言おうとするが、その前に上空の天使が試合の勝敗を知らせ、フィールドの結界が無くなってしまった。
こうして優真達は、キクルの敗北宣言により、勝利を掴みとった。
これって優真的に一番悔しい勝利なんじゃないだろうか……




