45-10
ファルナの【猛虎の嵐】が発生させた風が消える頃には雪も止み、会場が騒然となる。
『決まったぁああああ!! 先鋒戦を制したのは子どもを司る女神様チームのファルナ選手だぁああああ!!』
ファルナはその姿を徐々に人間の姿へと戻していき、こちらにいつもと変わらない笑顔で戻ってきた。とは言うものの、ほんの少しだけ未だに機嫌がなおっていない様子だった。
フィールドでは倒れている少年を仲間と思われる眷族達が早く治療しろと言って騒がしくなっている。どうやらファルナは未だに力を使いこなせていないようだ。
使いこなせていたならば、少年が怪我だけで済む筈がない。なにせ彼女は、麒麟様の眷族、嵐王白虎様が認めた逸材だからな。
でもまぁ、正しい治療が成されれば、いずれ完治することだろう。明日も試合があるのであれば試合に支障をきたすだろうが、生憎、彼の出番は今日で終わりだ。
なぜなら、俺が中堅で試合を終わらせるからな。
優真がフィールドに現れた瞬間、上空の天使が表情を輝かせた。
『おお! ついに出ました!! 予選では多くの相手を一太刀の元に沈め、触れることの出来ぬ者と神々に言わしめた男! 子どもを司る女神様の眷族筆頭、ユウマ・アマミヤの登場だぁああああ!! てっきり昨日のドルチェ選手が出てくると思っていましたが、まさかまさかの登場です!! そして!! 彼と対戦するのはこの御方!! 数多くの女性を虜にし、その実力は前風の眷族筆頭を引退に導いたと噂されている程の実力!! ルキュナ・アルグレン選手だぁああああ!!』
腰に剣を差している二人の剣士がフィールド上で向かい合う。優真は腰の鞘を左手で握りしめるが、ルキュナは愉しそうな笑みを見せている。
「俺が勝ったら万里華に誠心誠意謝罪し、二度と俺達に近付くな……いいな?」
優真は目を鋭くし、ルキュナにそう聞くと、ルキュナはそれを肯定した。
「もちろん! 君が勝ったらな。当然、私が勝てば愛しのユリスティナ嬢はいただく。手を出さないでもらおうか」
ルキュナが自信満々に言い放つと、優真は露骨に嫌そうな顔でため息を吐いた。
「……はぁ……正直、人の人生を賭けるのは好きじゃないんだが……本人も了承していることだし……それで問題ない。主神にでもなんにでも誓ってやるよ」
「その言葉忘れたなんて言わせないからな! こちらも雪の男神様に誓って約束を守ろう!!」
ルキュナのテンションが最高潮になり、試合開始を報せる鐘の音がスタジアム全体に響きわたる。
直後に動いたのはルキュナだけだった。
「君じゃこの程度も追い付けないかな!」
いつの間にか握られている剣でルキュナは微動だにしない優真目掛けて剣を振る。
しかし、優真はそんな絶体絶命の状況にいるというのに、口角を上げた。
「万里華を傷つけた罪を償え」
その言葉がルキュナの耳に届いた瞬間、ルキュナの体から血が噴き出した。
麒麟の眷族達は白虎が嵐王、朱雀が炎王、青龍が水王、玄武が地王として、それぞれの神獣族に崇められています。




