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全ての話を聞き終えた優真の顔は、笑顔ではあったが押さえきれない怒りが溢れだしていた。
「なぁ万里華……今の話は本当なんだな?」
「う……うん……」
低く通る声が万里華に返事をさせる。普段は怒りを滅多に見せないだけに、優真の怒りが有頂天に達しているのだとその場にいる誰もがそれを理解する。
普段は優しさが垣間見える彼の笑顔が怖い。相談したユリスティナまでもがガタガタと震えている。
「……まったく……なんで毎回毎回、俺のいないところで変な騒動が起こるのかねぇ……」
シルヴィがベラキファスに捕まった時も、ファルナが帰りの船で襲われた時も、チャイル皇国の時も、全部自分がいない時に限って周りがピンチになる。しかも今回は、スーがいなければ万里華が死んでいたかもしれない。
そう思うと怒りが押さえきれない。
「万里華に剣を向け、俺のユリスティナに結婚しろと強要……さすがに調子乗りすぎだろ……」
そう言って周りを見た優真は、自分が皆を怯えさせていることに気付く。冷静さを欠いてしまっていたことに気付き、目を閉じ、気持ちを落ち着かせる為に深呼吸をする。
そして、怒りを自分の中に押さえ込むことに成功した優真は先程とは異なる穏やかな笑顔を見せた。
「スー、万里華を守ってくれてありがとう。今後も俺のいない時は皆を守ってくれると助かる」
「ん……任せて……」
眠そうにサムズアップするスーチェに笑顔を向け、優真は万里華の方を見た。
「万里華、俺が居ない時は無茶するな。今回はスーチェが居てくれたからなんとかなったが、お前まで失ったら俺は理性を保てる気がしないぞ」
その言葉に、万里華は少し落ち込んだような表情を見せた。
「ご……ごめん……これからは気をつけるよ……」
「でも、万里華らしいっちゃらしいな。ユリスティナが連れていかれないように守ってくれてありがとう。これからも頼りにしてるよ」
「……うん」
反省しなくてはならないというのに、頼りにしてると優真に言われて万里華は嬉しい気持ちが押さえきれない。そんな彼女の様子を見た優真は、隣にいるユリスティナへと目を向けた。
「最後にユリスティナだが……」
優真がそう切り出すと勝手なことを約束してしまった自分は怒られるのではないかと思い、ユリスティナはびくついた。
しかし、優真は怯えながら目をつぶって自分の言葉を待つユリスティナを見て、席から立った。
そして、彼女の頭に軽く手を置いた。
「安心しろ。俺は自分の大切なものに手を出されて黙っていられるような優しい性格はしていない。お前は俺の婚約者だ。例え相手が神であろうと、どっかの眷族筆頭であろうと、お前達の為なら全身全霊を掛けて勝利を掴みとってやるさ。だから、信じて待ってろ。俺達の勝利を」
その言葉にユリスティナはポロポロと涙を流し始めた。色々な感情が心の奥から沸き上がってきて、それを止めることが出来ない。
でも、これだけは自分の口から言いたいと思った。
「……はい……わたくしはユウマ様の勝利を……心より信じております!」
目に涙を溜めたユリスティナは笑みを向けながら、優真にその言葉を伝えた。




