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「やはり貴女は薔薇のように美しき女性だ」
「……ありがとうございます……」
片膝をつき、うっとりとした瞳をひきつった笑みのユリスティナに向けているルキュナは中々ユリスティナのもとから離れる様子を見せない。
万里華としては、さっさと帰ってもらいたい気持ちでいっぱいなのだが、天使が眷族、ましてや眷族筆頭に口を出すのはご法度とされている。ハナやメイデンのように気にしない性格ならまだしも、親しくもない間柄の眷族相手に意見すれば、殺されることだってあり得る。
それがわかっているから万里華は強く出れない。
(せめて優真がここに居てくれれば……いっそ女神様に助けを求めようかしら……)
万里華がそんなことを考え始めた時だった。
「ところで……貴女は何故、そのように汚れた格好でおられるのでしょうか?」
「別に……わたくしがどのような格好をしたってよろしいではありませんか……」
「よくありません!!」
その語気を強めた言葉に、ユリスティナがびくついたのだ。
元々気の強くないユリスティナにとって威圧的な態度は恐怖の対象に過ぎない。それを証明するかのようにユリスティナの表情には少し怯えが見えた。
だが、ルキュナは興奮しているのかその微かな変化に気付かない。
「貴女には! 高貴で、優雅な姿がお似合いだ! そんな貴女に泥まみれな格好をさせるなど……やはりあの男は卑劣な奴だ!!」
立ち上がって声をでかでかと言うその姿はまるで、優真の悪いところをユリスティナに言い聞かせているようにも見えた。
「さぁ、私が来たからにはもう安心です! 何で脅されたかは知りませんが、今すぐにでも私がここから貴女を連れ出してみせましょう!」
「きゃっ!? 何するんですか!?」
ルキュナにいきなり腕を捕まれたユリスティナは悲鳴をあげるが、それでもルキュナはやめようしない。
「やめてください!!」
そんな行動を万里華が許すはずなかった。
立場や関係性の悪化になるからと今まで黙って見ていた万里華だったが、さすがに誘拐を許容するほど大人しい性格ではない。
万里華は咄嗟に右手で、ルキュナの右腕を掴む。予想外な行動にルキュナはユリスティナを離してしまうが、彼の顔は怒りで歪んでいた。
「天使風情が……私の邪魔をするな!!」
ルキュナは右腕を振りほどき、体勢が崩れた万里華目掛けて、腰につけていた剣を引き抜き、そのまま斬りかかった。




