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「ごめんユウタン……私……ファミルアーテじゃなくなっちゃった……これじゃ、ユウタンの婚約者失格だよね……」
せっかく止まった涙が溢れ出しそうになって、ハナはうつむき、優真に向かってそう言った。そんなハナに対して、優真は間髪入れずにこう答えた。
「いやなんで?」
その答えに、ハナは優真の表情を確認した。優真は、よくわかっていなかさそうな顔で首を傾げていた。
「……なんでって……私ファミルアーテじゃなくなっちゃったんだよ? 権力も0なんだよ? これからはユウタンの為に動くことなんて出来ないんだよ?」
「そんなもの望んじゃいないよ。俺は別にハナさんがファミルアーテじゃなかろうが、大地の女神様の眷族筆頭じゃなかろうが、それでハナさんを嫌いになるつまりはない!」
一歩、また一歩と優真はハナのもとに歩を進めていく。そして、ベンチから立ち上がっていたハナの前まで立つとそこで歩を止めた。
「ハナさんはハナさんだ……可愛くて、優しくて、いつも楽しそうな笑顔を見せ、仲間の為に前へ立ち、全力で守ろうとする芯の通った素敵な女性だ」
優真は涙を腕で拭っているハナをそっと抱き寄せ、彼女にそう語りかけた。
「俺の自慢の婚約者の一人なんだ。今回の件は残念だと思うけど……それはハナさんのせいなんかじゃない。もちろん、俺の気持ちも変わらない。……だからさ、皆のもとに帰ろう?」
その言葉が、悲しみに暮れる少女の胸に響き、ハナは溢れ出す涙がおさえられなくなり、何度も腕で涙を拭う。
「ごめん……なさい……ごめんなさい、ユウタン……! 私……ユウタンの為にどうすればいいかわかんなくて……ユウタンの望みが優勝する事だってわかってたのに……女神様や皆のことも大事で……結局私……最後まで決めきれなくて……ごめんなさい……本当にごめんなさい!」
「……もしかして……そんなことで俺って避けられてたの?」
「…………ごめんなさい……」
ハナは少し驚いたような顔を向ける優真の表情を伺うように見た。怒られる。そう思っていると、彼は急に安堵したような顔を見せた。
「良かった~嫌われたんじゃ無かったのか~」
「お……怒ってないの?」
「怒る訳無いじゃん! むしろ、俺は嬉しいね。ハナさんが俺と女神様を天秤にかけて、最後まで悩んでくれてたなんて……ありがとう、ハナさん」
「でも私は……」
「いいんだよ。ハナさんが自分で選択して選んだ道なんだ。それを咎めるなんて、俺には出来ないよ。だから、俺はハナさんを怒ってないーー」
「私は怒っていますけどね」
上から女性の声が聞こえ、反射的に二人はその声のした方に目を向けた。
すると、優雅なドレスを着用している茶髪の女性が芝生の上に降り立った。




