44-9
優真は目の前で起こった出来事を見て、悔しそうに顔を歪めながら、掴んでいた手すりにおもいっきり拳を叩きつけた。手すりは呆気なく歪むが、それでも優真の心は晴れなかった。
本戦は予選と違い、腕輪の装着が許されていない。攻撃を受ければ怪我をするし、死ぬ可能性もおおいにある。だから、相手を責めることなんて出来ない。
そうは思っていても、知り合いが亡くなることに何も思わない筈がなかった。
『な……なんということでしょう! 大地の女神様の眷族が二人も炎の男神様の眷族達によって殺されてしまい……? いや、ちょっと待ってください……!? 生きてます!! 大地の女神様の眷族メルホルン様は生きておられます!!』
空に浮かんでいる天使の口から放たれた言葉で、項垂れていた優真は顔を上げてフィールドを見た。そこには、大地の女神の眷族達に囲まれているメルホルンと、背中を見せて控え室の方へと去っていく男の姿が映った。
『炎の渦がぎりぎり逸れ、当たらなかったようです!! しかしながら、メルホルン様、既に気を失っており、炎帝様からも既に戦う意思は見られません! 決着!! 決着です!! 勝者は炎帝様! よって、2-0で炎の男神様チームの勝利です!!!』
何が起こったのかわからない。観客席からでは、メルホルンの体を泣いて抱きしめるハナしか見えない。
だが確かに、焼け焦げた跡は倒れているメルホルンのすぐ近くまでついていたが、彼女には当たっていないように思えた。
直前で外した。
そうとしか思えない状況に、優真は何が起こったのかわからなかった。ただ、地面が揺れる直前に、炎帝と呼ばれた男がこちらの方を見たような気がした。
◆ ◆ ◆
(……何故ここにあの子が……)
顔を悔しそうに歪めながら、男は控え室へと通じる通路を歩いていた。
そんな彼の前に自分と同じく黒ローブで体と髪を隠している男が立ちはだかった。その男を見た瞬間、炎帝はその足を止めた。
「……何故殺さなかった?」
そう聞いてくる仲間に炎帝は顔をしかめた。
「……興が冷めた……それに、あの場には時空神の眷族筆頭もいたのだろう? いくらローブで姿を隠していたとはいえ、運悪く未来を見られれば、作戦に支障をきたす……勝ちは確定しているのだから、これ以上危険な橋を渡る必要はない……そうだろ?」
「…………まぁいい。今回はそういうことにしておいてやる……」
「そうしてくれると助かる……だが、案ずるな……」
そう言いながら、炎帝は目の前にいる仲間の横を通り抜け、背中越しにこう言った。
「いずれ、神に属する者は全員殺す……」




