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……しかし、それは幻想に過ぎなかった。
「【陽炎】」
その声が背後で聞こえた直後、槍で突き刺していた相手の体がゆらゆらと揺らめき、消えてしまった。
その光景を見たことで、メルホルンは目を見開いた。そして、急いで背後を振り向くが、轟く銃声と共に発射された弾丸が横腹を穿ち、よろめきながら背中から倒れた。撃たれた箇所からは出血しており、地面が徐々に赤く染まっていく。
「な……んで……」
「それを今から死ぬお前に教えてどうなると言うのだ?」
リボルバー型の拳銃をホルスターにしまいながらそう言ってきた男に、メルホルンは何も言い返せなかった。
そして、目の前で展開されていく炎を見て、自分の死を悟った。
そんな時だった。
「まだ……諦めるなぁああああ!!!」
聞き覚えのある声が観客席から聞こえてきた。掠れた視界でそちらの方を見ると、見覚えのある黒髪の青年が見えた。他にも多くの人がいたにもかかわらず、その人物はなぜかすぐに見つかった。
「待ってくれてる人がいるんだろ! やらなきゃいけないことがあるんだろ!! だったらそこで寝っ転がってないで……最後まで! 生きることを諦めんなっ!!!」
なぜ彼が、自分にそんな言葉をかけてくれているのかわからない。彼は、この前知り合ったばかりの自分になんでそんな声をかける? 自分から尊敬する人物と一緒にいる権利を奪っといて……なんで、そんなことをのうのうと言える?
(……こっちはお前を敵視していたってのに……これじゃ……これじゃっ…………死にたくない……まだ、死にたくない……)
諦めて死ぬことは簡単だった。しかし、彼の言葉が胸につっかかって、全てを諦めていた手に、力をくれた。決して強くない力……拳を握り、地面に叩きつける。
特殊能力が発動し微かに地面が揺れた。不意をつかれた相手の男も少し体勢が崩れたように思えた。体が揺れで、ひっくり返り、目の前にある通路に向かって体を引きずった。
そして、通路にいくつもの人影が見えた。
その中でも目立つ影が二つ。
こちらを見て、涙を流している敬愛する存在と涙を流しながら、必死に何かを叫んでいる様子の尊敬する存在。
他にも、共に生き、共に戦い、笑いあった仲間達の姿が見える。
もっと……もっと皆と共にいたい。
そう思い、メルホルンは、仲間達に向かって腕を伸ばした。
そして、フィールドに巨大な炎が渦巻かれた。




