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「何があった!?」
通路の出口に集まっていた皆を見て、俺は慌ててそう訊いた。皆に何かあったのかもしれないと思って急いで来たが、誰も欠けていないし、いつもと変わった様子もない。強いて言うなら、パルシアスの姿が見当たらない。
「落ち着いて聞いてよ、優真……」
ファルナとドルチェを下ろしている俺に万里華がそう前置きをしてきた。どうやら冗談という質の悪い悪戯では無かったらしい。
「さっき大地の女神様のところを観戦してくるって言って、そっちに行かれた鉄の女神様から連絡があったの……」
そして、彼女が次に言った言葉は俺を取り乱させるには充分なものだった。
「……ハナちゃん達が負けそうなんだって……」
◆ ◆ ◆
あり得ないことが起きた。
先鋒と中堅を圧倒的な勝利で初戦を飾るべく、ここまで鍛えに鍛えあげてきた仲間が、炎に焼かれて見るも無惨な姿になった。
目の前で泣いている仲間達……自分だって悲しくない訳ではない。ただ、何が起こったのか理解が追い付かない。
観客席で見守っていた仲間や女神様までここにいる。
この『神々の余興』では、不幸中の事故というものがある。だから、相手を責めることは出来ない。だが、今回は別だ。
彼女は間違いなく降参を宣言していた。
しかし、その直後に相手の火力が信じられない程上がった。
その結果、避ける余力すら無かった彼女は…………
「……私が出る……」
ハナの言葉に、泣いていた全員が驚いた顔を彼女に向けてくる。
本来であれば、ハナは大将戦に出る予定だった。しかし、順番を元から決めていないこの『神々の余興』では、それが可能だった。だから、ルール上の問題は無い。
神を含めた全員が、それが最善だとわかっていた。だが、嫌な予感がしてならなかった。
「……意見が無いなら……行くね」
そう言って、ハナがフィールドに繋がる通路へ向かおうと足を踏み出した瞬間、彼女の前に一人の少女が立ちはだかった。
「駄目ですよ、ハナ様……それだけは、絶対に駄目です」
そこに立っていたのは薄い茶髪に色白の肌という見た目の少女で、胸と腰を薄い布で巻いただけの姿をしていた。そんな彼女の手には槍が握られている。
「メルル……出番を入れ替えるくらいいつもやってたじゃん。メルルが大将になるだけ……ね?」
「違いますよね?」
その一言を放ったとき、メルルと呼ばれた少女は哀しそうな表情を見せていた。
「ハナ様の顔を見ればわかります。ハナ様……辛そうですもん。……報復するつもりなんでしょ? あたしが負ければ……そんなことは出来ないから……やるならこの中堅戦しかない……でも、それだけは許せません!!」
「なんでよ!! ここまでされて私に黙って見てろっての!!?」
「だって……だってそんなことしたら運命の人との婚約も無かったことにされるかもしれないじゃないですか……」
「っ!!?」
悲しげな表情で訴えてきたその言葉に、ハナは衝撃を受けたような表情になる。
「200年も待ったんでしょ? だったらこんなところで全てを不意にしないでください! 彼女の仇はあたしが取ります!! だから……ハナ様はここで待っていてください……絶対あたしが……貴女に繋げてみせますから」
そう言った少女は、呆然と佇むハナを一瞥してフィールドへと向かった。




