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現在優真はドルチェとファルナを連れて、用意された控え室の方に向かっていた。
偶然にも鉄の女神達の試合直後に同じスタジアムでの試合となったのが原因だった。そして、同じ控え室ともなれば、必然的に出会ってしまう。
「メイデンさん、勝利おめでとう」
「……ご主人様……」
微かに驚いた様子だったが、変化は些細なものだった。むしろ、表情が暗くなったようにも思えた。
彼女の後ろには二人の男性がおり、どちらも優真とは顔見知りだった。
そして、気まずい雰囲気が漂うなか、間に割って入ったのはウィルだった。
「おいおい! なんであんたがここにいんだよ!」
彼は遠慮なく優真の肩を何度も叩いて再会を喜んでいる。
「やぁウィル……あの時はすまなかったな。ちゃんと戦ってやれなくて……」
「いいってことよ。あれは命と命をかけた戦いだ。卑怯とかそんなん関係ねぇよ。引っ掛かる方が悪い……それだけだ」
「そう言ってもらえるとこっちもありがたいよ」
「おう。……ところで、あん時の赤髪のガキは元気か? また勝負してやるからいつでもかかってこいって言っといてくれや!!」
ウィルの言葉に優真はすぐに返事を返せなかった。
「…………ああ……わかった……ちゃんと伝えとくよ……」
彼は何も知らない。そして、彼は彼女を知っている。それならば、彼女のことを聞くという可能性は充分あると優真にもわかっていた。だから、そう返すしかなかった。
そんな優真の心情を知ってか、ウィルの頭が乾いた音を鳴らす。
「デリカシー皆無なんですか? 彼は今から試合なんです。心を乱すような真似は慎みなさい」
「……うっす……」
カリュアドスの言葉に、痛そうに頭を撫でるウィルは渋々といった様子でそう返事をした。
そして、メイデンが優真の前に立つ。
「……ごめんなさい……」
「いいよ、気にしないでくれ」
「……それでその……幻滅……した?」
「なんで?」
「……だって私……皆に嫌われてる……」
その表情は哀しそうに見え、本当は聞きたくないことなのだと優真にもわかった。だが、優真の答えは変わらない。
「する訳無いじゃん。メイデンさんが人から嫌われてたって関係ないし。それに……」
「……それに?」
「それに……俺はメイデンさんが本当は優しい子だって知ってる。メイデンさんを幻滅しない理由なんて、それで充分だろ。……それじゃあ俺達はそろそろ行かないといけないから……お互い頑張ろうな!」
優真は最後にそう残すと、彼女達に背を向けて手を振りながらファルナとドルチェを連れて奥へと向かった。
「おやおや……うちの眷族筆頭の心を乱すような真似はしてもらいたくないのですがね……」
カリュアドスは横目で俯いている少女の姿を見て、そう呟いた。
「……大丈夫……私のやることは変わらないから……」
「左様ですか」
「……うん……私はあの人に今度こそ勝って……絶対に振り向かせてみせる……」
顔を真顔に戻したメイデンは、カリュアドスにそう宣言し、外へと通ずる道を歩き始めた。




