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『私の眷族にならないか?』
遠い昔、牢屋にいる私に、女神様がそう言ってくれていなかったら……私はきっと愛というものを知らずに死んでいた。
「逃げているだけじゃ、この神器クープからは逃れられんぞ!!」
赤く神々しく輝く弓、そして、弾丸のような速さで迫り来る炎の矢。神器クープを構え、メイデンに向かって何度も弓を引くアポロが声を高々にそう叫ぶ。
しかし、メイデンの表情に焦りといった表情は見られない。見せるのは、無表情の仮面と少女の手には似つかわしくない仰々しい剣だけ。
アポロの神器による攻撃を避けながら、メイデンは眷族になったばかりのことを思い出していた。
それはまだ、自分が眷族となったばかりの頃で、今と違い、精神が死んで、見る者全てが敵だと思っていた頃だった。
◆ ◆ ◆
鉄の女神様の眷族となった時、自分は周りの眷族に受け入れてもらえないでいた。ただ、誰とも仲良くするつもりなんて無かったから、自分は孤独でいようと決めた。
しかし、女神様だけは違った。なにかと私で遊びたがり、いつも着せ替え人形のように服を着せたがる。
私にそんな可愛い服は似合わないと言っても、結果は同じ。でも、そんな女神様が私は大好きだった。
だから、あの女神様の傍に居続ける為に、私は自分の役割を全うした。
人を殺すのではなく、罪を犯した眷族を捕まえる仕事。
始めの頃は何度も返り討ちにあって、その度にカリュアドスや他の眷族に迷惑をかけてしまった。
自分のせいで死んでしまった眷族もいた。
それでも私は泣くことが出来なかった。
◆ ◆ ◆
「……【処刑道具召喚】解放! ……出でよ、裁きの十字架……」
張りの無い声でメイデンは自分の手に1本の直径5センチ程の十字架を出現させた。
それを見たアポロは警戒を露にするが、攻撃をやめるつもりは無い様子だった。
観客席にいる者達は、その小さな十字架を見て嘲笑う者も多い。だが、処刑人の役割を正しく理解しているアポロや他の者達は違う。彼女の特殊能力は危険だと知っているのだ。
処刑人の役割は、罪を犯した眷族を捕まえること。
その為には実力行使も許可されている。
なぜなら、敵が反撃してくる可能性が高いからだ。時には、ネビアのようなファミルアーテに選ばれるような眷族の相手もさせられる。
そして、メイデンはこれまで、この役割を100年以上もこなしている。例え、どんなに格上であろうと、どんなに多数であろうと関係ない。彼女は確実に眷族を無力化した状態でパルシアス達のもとへ連れていく。
つまり、メイデンの特殊能力はおもちゃ箱という名前で判断するべき代物ではないということだ。




