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条件が揃わないと最強になれない男は、保育士になりたかった!  作者: 鉄火市
43章:実習生、嫌われ者の戦いを観戦する
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43-7


 パルシアスの説明は分かりやすすぎるくらい分かりやすかった。それだけに、俺は辛い気持ちになった。

 彼女は、いったいどんな気持ちであそこに立っているのだろうか?

 神の為に立っているあの舞台で、会場全体を敵に回しながら格上と戦う。

 そんなの……俺じゃ絶対に耐えられない。


「あ~っもう!」

 髪をかきむしった優真は勢いよく席から立ち上がり、周りの酸素を一気に吸い込む。

「頑張れぇええ!! メイデンさぁああああん!!」

 一気に解放されたその声は、空気を振動させ、スタジアム全体に響き渡る。

 そのあり得ぬ応援に、今の今まで途絶えることの無かった罵声は一瞬で止み、暫しの静寂が空間を支配する。


 いてもたってもいられなくなった俺の声に、周りだけでなく、フィールドに立つ彼女本人も驚いた顔をこちらに向けてきた。

 何もおかしくないはずだ。俺はただ、彼女を応援する為にこのスタジアムに来たんだ。罵詈雑言を聞いて苛つく為じゃない。

 だから、俺だけでも彼女を応援したっていいはずだ。

「シェスカも! シェスカもお姉ちゃんの応援する!」

 立ち上がっている俺のもとにシェスカが手を広げてそんなことを言ってくる。それが俺はとても嬉しかった。

「おう! じゃあシェスカも一緒に応援するか!」

「うん!」

 笑顔を向けて頷くシェスカを抱き上げると、シェスカは俺の腕に座ってメイデンの方へと声を大にして応援し始めた。

「メイデンお姉ちゃ~ん! 頑張って~!」

 そして、それに感化されたのか万里華達も立ち上がり始めた。

「頑張れ~メイデンちゃ~ん! そんなライオン頭、ぶっ飛ばしちゃえ~!」

「頑張ってくださ~い!」

 周りに奇怪な目で見られながらも、万里華や恥ずかしがりやのシルヴィも声を大にして応援してくれている。ユリスティナやファルナ達もそれにつられて彼女を応援し始めた。


 ◆ ◆ ◆


 声援なんてもらったの……いつぶりだろう。いや、そんな時は一度も無かったかもしれない。少なくとも、ここに初めて立ったあの日以降、一度も無かった。

 周りの声は自分を殺せと言ってくる。自分に負けろと言ってくる。だから、頑張れって言葉が……ほんの少しだけ嬉しかった。


「……あそこにいるのはお前の仲間か?」

「…………」

 メイデンはアポロの声に、顔をそちらに向ける。だが、何も喋らない。そして、それがわかっていたかのようにアポロは口角を吊り上げた。

「相変わらず可愛げがない……だが、あったとしても、貴様を殺すことにかわりはない」

 アポロはそう言うと、所定の位置に立ち、開始の合図を待った。

 そして、スタジアム全体に鐘の音が鳴り響いた。


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