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「はぁ……よりによって私の相手は人間ですか……期待外れもいいところですね……」
ヨーノルドは目の前にいる男を見て、溜め息を吐いた。彼からにじみ出るオーラに一切の恐怖を感じない。
初戦の先鋒がいかに重要なのかをわかっている彼女達だからこそ、二人の内のどちらかを出してくると思っていた。
しかし、実際出てきたのは見るからに脳が筋肉だけで構成されていそうな人間。やる気の維持が難しい相手だった。
「っかぁ~次の相手は楽しませてくれるんだろうな~」
大声でそんなことを言い始めた人間にヨーノルドはその目を鋭くさせる。
「昨日のゲームはつまんねぇ奴しか居なかったし……正直うんざりしてたんだ」
「惨めな人間ごときが……調子に乗るな……」
ヨーノルドの身体から熱気が溢れだし、周りの気温を上げていく。その表情には怒りの感情が現れていた。
「っは~たまんねぇなぁ~あんたなかなか面白そうじゃねぇか~!!」
ウィルの相手を煽るような笑みに、ヨーノルドの額に筋が立った瞬間、スタジアム全体に大きな鐘の音が鳴り響く。
その音により、スタジアムのフィールドに立つ二人は地面を蹴った。そして、勝負は一瞬にして決まった。
ヨーノルドは相手が人間だという理由で、ウィルは相手が拳を握ったという理由で、それぞれ武器を持たなかった。
その結果、ヨーノルドの一撃はウィルよりも早く相手の顔面を穿つ。しかし、人を容易に殺すことのできる威力を持つ拳を真っ正面から受けたウィルは残念そうな顔を見せ、たった一言こう言った。
「……がっかりだよ……」
直後に放たれたウィルの一撃はヨーノルドの一撃よりも遥かに強力だった。
けたたましい轟音を響かせ、ヨーノルドの体は一瞬でフィールドに設けられた結界に叩きつけられ、動かなくなってしまった。
元人間が何百年も神の眷族として名を上げて来た者を倒す。そんなあり得ない状況にスタジアム全体が静まりかえってしまった。
歓声を上げることすら出来ない。
紹介や盛り上げを任せられていた天使でさえ、目の前で起こった状況に目を見開き、声も出せない様子だった。
そんな沈黙が支配するスタジアムで、ウィルは試合の礼をしてから、控え室に戻っていった。
(ファミルアーテの第8位だって師匠に聞いてたから結構期待してたんだがな……そこのナンバー2もあの程度か……)
長い通路を歩くウィルは両手を腰につけながら、皆の待つ控え室に向かっていた。
そんな彼の視界に一人の少女が映った。
その少女を見た瞬間、ウィルは口角を吊り上げ、これから起こるであろう面白い見せ物に期待してしまう。
「頑張ってくれよ、大将!!」
すれ違い、背中越しに手を振りながら、ウィルはそれだけを伝えた。
そして、銀髪の少女は目的を果たすために、その足を前に進めた。




