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「こっからは俺が相手になろう。ちなみにお前が拒否して後ろの子ども達と戦う……なんて選択肢はない。要するに、後ろの子ども達と戦いたいんなら俺を倒してからにしな」
優真がゆっくりと刀を引き抜き、その切っ先をドラゴンへと向けながらそう言うと、目の前にいるドラゴンは声を高らかにして笑い始めた。
「……我と戦うだと? 人間風情が調子にのるでない!」
「人間ったって、眷族になる前が人間ってだけで俺はちゃんとした眷族だよ」
優真がそう答えると、ドラゴンはそれを鼻で笑った。
「人間は人間。卑怯な真似をせねば我のような高貴な竜族に傷一つつけることすら叶わぬ。元の力が違いすぎるのだよ。人間は持っておるか? 我のような大地を切り裂く爪を? 人間は持っておるか? 我のような大空を羽ばたく翼を? 嘘をつき、同族を騙し、欲に汚い人間共を、我は長き年月で何万と見てきた。その全てが我の爪であっさりと死んでいく。人間は弱い。眷族となり得たところで、我とは比べ物にもならんのよぉ」
低く威圧的な声で、ドラゴンは語る。
そして、何も言い返さない目の前の人間を見下す。
だが、何を言い返してきても、それは自分の目で見てきた事実。確かに、ファミルアーテには、元人間が何名も名を連ねてきた。
そいつらを彼が認めていない訳ではない。卑怯だろうがなんだろうが強い者は強い。そのうえ、破壊神の現眷族筆頭は元人間とは思えない程の実力者だ。
だが、それは見聞で知ったに過ぎない。
破壊神の眷族筆頭でファミルアーテ4位という地位が彼だけで得たというのであれば、話は別だ。しかし、かの男は前回の『神々の余興』でほとんど勝てていない。先鋒と中堅で出た二人がいたからこそ、あの順位になったのだとドラゴンは確信していた。
「人間ごときが眷族を名乗るな……貴様ら人間は身の程を知るがいい!!」
そう叫ぶとドラゴンは、優真を踏み潰すために、その太い足を上げて勢いよく下ろした。
しかし、手応えはなかった。
「お前が長い年月で何を見てきたのかはよく分かった」
その声が聞こえたのは、視界の外だった。急いでそちらを見ると、先程の人間が普通に立っていた。
瞬間移動をされたのではないかと思ってしまう程の速き動きだった。
「まぁ……だからと言って、お前の考えを全部肯定する気はないし、否定する気もない」
そう言いながら、再び優真は刀を構える。
「だが、その程度で人の全てを知った気でいる哀れなトカゲ野郎がやった行動を正しいとは思わない。あんな小さい子どもを相手にいきがるうすのろ風情が……人間語ってんじゃねぇよ!!」
怒りに染まった顔の優真が地面を蹴る。その速さに、竜王の目は追い付かない。
「十華剣式、壱の型、菊一文字!!」
刀を鞘に収めた音が辺り一帯に響いた直後、ドラゴンの体から真っ赤な血が舞った。




