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マルテが恐る恐る目を開けると、目の前の光景に絶句した。
そこに見えたのは、なにかを抱えた黒髪の青年がドラゴンの顎をアッパーカットしている光景だった。
アッパーカットをまともに食らったドラゴンは宙を舞い、数メートル後方へと吹き飛んだ。
その一部始終を見ていたマルテは口を開き、呆けたような表情を見せていた。
目を閉じていた時間は1秒も無かった筈だ。
先程までそこにはドラゴン以外誰もいなかった筈だ。
それなのに、どうやってこの一瞬でそんな芸当が出来たというのだろうか。
なにより、敵である筈の彼が、何故自分を守ったのか。それが一番理解出来なかった。
「あっぶね~あぶね~……あんなブレス真正面から防げとか、スーじゃないんだから無理に決まってんだろ……」
地面に着地した優真が顔に薄ら笑いを浮かべながらそう言った。その光景に、観客席に座る者達どころかフィールドで戦う眷族達も目を奪われる。
そして、優真が振り向く。
「大丈夫だったか~少年?」
顔に笑みを浮かべながらそう聞いてくる優真の姿を見て、マルテは彼の底知れぬ力を垣間見たような感覚を覚え、地面にへたりこむ。
しかし、優真の腕の中に先程遠くへ投げた筈のキクルがいるのを見た瞬間、恐怖とかどうでもよくなった。
怒りながら彼女を取り戻そうとするが、その前に、近付いてきた優真に彼女を渡された。
「ほらっ、男ならちゃんと守ってやれよ」
そう言われながら、頭をポンポンと叩かれる。
ありがとうとも余計なお世話だと言うことも出来なかった。
マルテはただ、その大きな背中を見送ることしか出来なかった。
◆ ◆ ◆
優真は起き上がった巨大なドラゴンと対峙する。
その姿は、ドルチェと異なり、異世界物でよく見る二足で立つものだった。
濃い緑色のドラゴンで両翼を大きく見せて、威圧しているようにも見える。そして、確認するまでもない事実、彼はどうやら怒っているようだ。
「一体どういう了見だ? 我の邪魔をしてただで済むと思うとるのか?」
威圧的な言葉が、後ろにいる少年の顔を青くしていくのを感じた。
相変わらず、とんでもないことに巻き込んでくれる特殊能力だが、今回はよく発動してくれたと言わざるをえないだろう。
……キクルとその大事な家族を怯えさせるなんて……絶対許さねぇ。




