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キクルは困っていた。
先程から緊張している様子の巨人達が、自分の周りを落ち着かない様子で行ったりきたりしている。しかも、足下を見ていないせいで、時々踏み潰されそうになる。何度も声をかけるが、その度に聞こえていないかのように無視してくる。
いっそここで凍らせてしまおうか。そんなことを考えてしまうが、首を振ってそれは駄目だと自分に言い聞かせる。
それをすれば、主神に迷惑をかけてしまう。
自分がどうなろうとどうだっていい。だが、雪の男神に迷惑をかける訳にはいかない。
そんなことを考えていたからだった。
自分の真下に黒い影ができたことで、キクルは慌てて上を向いた。
(こんなときに注意を怠るなんて……)
見上げた先にある靴裏は、既に避けることも許されない位置にあった。
こんな巨人に踏み潰されれば、自分の命は呆気なく潰えることだろう。
そして、キクルは全てを諦め、目を閉じた。
しかし、いつまでたっても、痛みは来なかった。
それどころか、固い床が柔らかくなったような感じもした。
「大丈夫? 怪我はない?」
そんな優しい声をかけられたのは、違和感に気付いた直後だった。
恐る恐る目を開いてみれば、目の前には巨人の顔があった。ここにいることからどこかの眷族であるということがわかっていたから、言葉が通じるのは理解出来た。しかし、自分に「大丈夫」という言葉をかけてくれるとは思ってもみなかった。
「だ……大丈夫……です。怪我とかも……してない……です」
「良かった~。君が無事で……」
自分の体を確認して無傷であることを伝えると、その巨人はほっとしたような笑顔を見せた。
「ありがとう……です。あっ……私はキクル……キクル・ペルテ・リアルマ……です。雪の神様の眷族……です。あなたもどこかの眷族です?」
「うん。俺は優真……子どもを司る女神様の眷族だよ。……ところで、このままここにいたらまた危険そうだし、俺の座ってたベンチに行かない?」
「いいんですか? 私は……これから敵になる相手ですよ?」
「なに言ってんの? 俺にとってそんなことは二の次なんだよ。一番は子どもを危険な場所で放置しない。これ大事ね。君がどうしてもここにいたいって言うんなら、俺もここで君と一緒にいるよ」
「……君じゃない……です。……キクル……そう呼んで欲しい……です」
「そう? なら、そう呼ばせてもらおうかな。よろしくね、キクル」
「はい……です」
キクルははにかんだ笑顔でそう答えた。




