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「『神々の余興』に備えて、配下を使用し眷族候補を探すという作業は多くの神……特に世界各国を自由気ままに移動できる天候を司る神達が好むやり方だ。そして、人間がどうなろうと気にしない君にとって、一番楽なやり方なんだろうね」
女神様の言葉に霧の女神は図星をつかれたような表情を見せている。だが、女神様は口を閉ざすつもりは無いらしい。
「君のことだ。あの時だって自分は可愛がっていたペットを殺された被害者だとでも思っていたんじゃないのか?」
「そりゃそうでしょ!! ミーちゃんは私の子ども達の中でも一番私の元にいた可愛い子だったのよ!! それがあんなことになって……ひっ!!?」
霧の女神がこちらを見た瞬間、怯えたような表情を見せてきた。それほど露骨だっただろうか?
でも、仕方ないだろ……怒りが押さえられないんだ。
自分の配下にシェスカやシルヴィを襲わせた癖に、自分は被害者だと言わんばかりの態度……腸が煮えくり返りそうだ。
優真から発されている怒りのオーラが、霧の女神に恐怖を与えていく。
以前、ミストヘルトータスの視界越しに見た男と同一人物とはとても思えない。約1年で、何があったらこんなにも変わることができるのだろうか。
敵意を見せない為に、配下の者を一人もつけなかった。
その選択が今は後悔しか自分に与えない。
次に、この男が気分を損ねるようなことがあれば、例え神の自分であっても、存在を消されかねない。
それを回避するためにも、謝罪は必要不可欠……しかし、何を謝ればいいのかがわからない。
「……落ち着きなさい」
その言葉が部屋の中で聞こえた直後に、優真から発されていた怒りのオーラは消えていた。
そして、冷や汗を流し、怯えきった表情で優真から距離を取ろうと後退りしていた霧の女神もその視線を優真から離し、子どもを司る女神の方に向けた。
「優真君、君が怒っているのはわかっている。だからこそ、落ち着いてほしい。彼女に手を出せば、こちらも悪く見られる。シルヴィちゃん達の立場を危うくしたくないのであれば、ここは耐えてくれ」
「……だがこいつは……」
「……優真君……怒っているのは君だけじゃない……」
その短い言葉は、優真の口をつぐませるには充分な威力を持っていた。
「いい子だね。……さて、霧の女神。もし君の大切な家族が攻められた時……君はどうする?」
「そ……そりゃあ、大切な子達だもの……全力で守るわ」
「つまりはそういうことだ。私達は家族を守る為ならいかなる手でも使う気だ。だからこそ、君のやったことを許す訳にはいかない。わかったら帰ってくれ」
子どもを司る女神の言葉に、霧の女神は言葉を返すことが出来なかった。そして、諦めたように「わかった」と子どもを司る女神に返して立ち上がる。最後にもう一度深々と頭を下げると、彼女は哀しそうな表情で部屋を出ていった。




