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その女性は、たった一人でそこにいた。
挨拶に行く際は眷族を傍につけるのが習わしだという話だが、その女性の周りに人影は無かった。
エパルのように、隠れるのが得意なのだろうか?
俺にはそう思うことしか出来なかったが、隣の女神様は違った。彼女は怒りを露にしていた。そして、来訪者も申し訳なさそうな顔を見せていた。
白い髪を後ろでまとめ、覇気の無い顔、気が弱い印象を抱かせるその女性が何者なのか……それは、女神様が次に放った言葉でわかった。
「……よくおめおめと私の前に顔を出せたね。ミハエラが名前を言わなかったのも頷ける話だ……さて、霧の女神が私にいったい何の用だね?」
その言葉が放たれた直後、俺は女神様に向けていた視線を来訪者の方に向けた。
霧の女神、それは約1年前に、ミストヘルトータスというSランクモンスターを森に放った張本人。その数ヶ月後、ネビアという眷族筆頭を先頭に、彼女の眷族達が襲ってきた時には、森の中で分断されてかなり危険な状況に陥った。
1度目はともかく、2度目の時には彼女の関与が証明されず、ネビアの独断という形で霧の女神は処罰の対象にはならなかったと聞いている。
「……あの時のことをちゃんと謝りたくて……特にそこの子には」
そう言いながら、霧の女神は俺の方を向いてくる。
「3ヶ月前、私の眷族達が貴方達を襲ってしまったこと……謝罪して許されることではないとわかってはいますが……礼儀を欠くのは、私のやり方に反します。申し訳ありませんでした。今後はこういうことがないように気を付けます」
霧の女神が頭を深々と下げて謝罪の意を示してくるが、俺はその謝罪が気に入らなかった。
「ミストヘルトータスの件は謝らないんすね……」
「え!?」
呆けた顔を見せた女神に苛立ちが増すものの、女神様の手前、2度も同じ過ちを犯す気はない。
「貴女が霧を蔓延させ、亀を放った張本人なんですよね? だったら普通、そっちの謝罪が先なんじゃないんですか? あれに関して言えば、貴女自身も関与しているんですから」
「そ……それはそうですが……」
霧の女神は困惑したような表情を見せる。その顔はまるでーー
「何が悪かったのかわからない顔をしているね」
その言葉を告げたのは、俺と霧の女神のやり取りを静観していた女神様だった。




