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縫われたような傷もなく、確かにそこに存在していたであろう傷が綺麗になくなっていた。
その瞬間、ここが現実かどうか怪しく思えてきた。
いや、最初からおかしかったのだが、現実味がなかったせいであまり、深くは考えていなかったのだ。
骨だって間違いなく何本か折れていたはずだ。
すぐに癒えるような傷ではなかったはずなんだ。
俺は現実かどうかを確かめるために、自分の頬をつねった。
つねった所は赤く染まり、痛覚が仕事をしているのを感じることができた。
要するに、ここは現実? または質の悪い夢?
「まだわからないのかい? さっき君が死んだのは間違いないし、ここも……一応現実と呼べなくもないかな」
その声が聞こえた方向へと首を向ける。
そこには、この白い空間の中では明らかに異様なものが置いてあった。
畳の敷かれた壁のない部屋、ちゃぶ台が中央には置かれており、その周りにはタンスやブラウン管のテレビ、小さい引き出しのついた棚の上に置かれた黒電話、明らかに現代の空間とは思えない部屋だった。
どちらかというと老人が住んでいそうな部屋に居たのは、自分より若いのではないかと思わせるほどの美少女だった。
エメラルドグリーンの長く艶やかな髪で端正な顔、そして、モデルかと見紛うようなスタイル。
白い布1枚だけで守られたそのふくよかな胸。隠れきれていない胸の谷間が、俺を誘惑してくる。
そんな女性が住むには似つかわしくないような部屋で、その少女はちゃぶ台に置かれた木の器から、せんべいを細い指で掴んで、形の良い唇へと運んでいた。少女の白く綺麗に並んだ歯が、せんべいを砕く音を聞いて、なんか違くね? と、心の中で思いながら、俺はテレビを見ている少女の方へと近付いた。
「遅い!」
少女は、怒ったような表情を見せるが、それほど怒っているようにも見えなかった。
何の反応も示さなかった俺を見て、諦めるようにため息をつく少女。
「まぁいいわ。どこか適当なところにでも座ってこのニュースでも見ていてちょうだい」
「……ニュースなんかより、俺はこの状況について詳しく聞きたいんだけどーー」
「そういうのはニュースが終わってから教えてあげるわ」
少女の言葉に促され、何がなんだかわからないまま、俺はニュースを見ることにした。