39-23
「これが居住区画に向かう為のエレベーターだよ!」
「なるほど……道理で空が低いと思ったよ……上に居住スペースを造ったのか……色々考えてあるんだな」
俺は目の前でどや顔をしている女神様の後に続きエレベーターへと乗り込んだ。
エレベーターに乗っている最中に、万里華達は今ミハエラさんと共に料理を作っているという話を聞いた。久しぶりに彼女達の手料理にありつけるのかと思うと気分が高揚していくが、女神が先程までのおちゃらけた雰囲気を消したことに少し疑問を抱いた。
彼女が押したエレベーターの番号は先程聞いた万里華達のいる階とは違ったのだ。
(どこに行くの?)
そう聞こうと思った瞬間、エレベーターは目的地に着いたことを報せ、その扉を開き始める。
「初めに言っておくけど……勝手な真似はしないでおくれよ」
低くなったトーンに、いつもの彼女とは違うと思った。これはいつもの友人のような接し方ではなく、神と眷族筆頭という正確な立場として、発されたものだと感じられた。
1メートル程の間隔を開け、俺は彼女の後ろをついていく。
幾つか電子ロックのかかった扉を開き、徐々に中へと入り込んでいく。
そして、最後に開いた扉の中にある光景を見た瞬間、俺は自分の目を疑った。
そこには、人が一人入りそうなカプセルが一つだけ置いてあり、そこにはホムラが入っていた。
膝を抱き、一糸纏わぬ姿となったホムラは目をつぶったまま、まばたき一つしない。
「動かないで!」
中に入ろうとした瞬間、甲高い声が俺の足を止めた。
「入れば、彼女はこの世から本当に居なくなるよ! 例えホムラちゃんを生き返らせたとしても、それは脱け殻……いや、ホムラちゃんの姿をした別の誰かになる……それでもいいの?」
その言葉を聞いて、俺は中に入ろうとは思えなかった。目の前にその姿がありながら、抱擁することも許されない現実。受け止めるのは困難だが、不可能じゃない。
「……大丈夫……全てが終わったら迎えに来る。少し寒いかもしれないが……もう少しだけ待ってろ」
扉で閉ざされ、女神がエレベーターの方に歩いていくのを背中で見送りながら、優真はホムラへ暫しの別れを告げ、女神の後に続いた。




