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…………だが、理屈や頭ではわかっていても、それが行動につながるかどうかは別問題だ。
実際、ここに立ち尽くしてそろそろ10分くらい経つ。
さっきから後ろで「まだか~」「早くしてくれ~」とライアンさんがぼやいてくるのが聞こえる。
少し前までだったら、「シルヴィの前であいつの悪口言って悪かったな」と謝ることも可能だった。
でも、地下室で聞いた話や今回聞いた話から総合すると、土下座でもすまない気がしてくる。
……いっそ腹切りという昔の謝罪でも試みるか?
臓物や血の掃除が大変そうだし、やっても誰も嬉しくないか。
「あれ? ユーマさんじゃないですか! 遅いと思ったらそんなところにいたんですね。ほら、早く中に入ってください。外は暑かったですよね? …………何してるんですか?」
玄関の扉を開けて出てきたシルヴィは、いきなり地に座り頭を地につけ始めた優真に疑問を抱いた。
「本当にすいませんでした!!」
「きゅ……急にどうしたんですか!?」
「知らぬこととは言え、あなた様の前で、女神を侮辱するようなことを何度も言ってしまったこと、誠に猛省しております。つきましては、この身に出来ることなら切腹から腹切りまで何だっていたす所存です。どうか、それでご勘弁を!!」
「えっ……えっ……えっ!? いったいどうしちゃったんですか?」
「わたくしめには、あなた様のような方と話をするのも恐れおおい身。知らぬとはいえ、あなた様が、信仰している神を侮辱したのです。この半年ずっと私に怒りを抱いていたこと、心中お察し致します」
シルヴィには、未だに謝っている理由がよくわからなかったが「信仰している神を侮辱した」という優真の言葉からだいたいのことは察した。
「……あ~、私が信仰している神のこと……知っちゃったんですね……」
「……左様でございます」
その質問に対して、優真は顔をつけたまま肯定する。
「私はその事について別に怒っていませんよ。ユーマさんが大変な目にあったのは事実なのでしょうし、女神様と会ったと聞いた時は大層羨ましいとは思いました。ですが、ユーマさんは、悪口を言いながらも、心の中では確かに女神様を信用しているのが傍にいるとわかります。……だから、ユーマさんの女神様に対する態度は、信頼の証。確かに最初は、敬愛している女神様の悪口を言われるのは、あまりいい気分はしませんでした。ですが、今は全然気にしてませんよ! ……だって、私はユーマさんのこと、女神様とおんなじくらい大好きですから」
…………えっ?
今なんて言ったの?
俺がおそるおそる顔を上げると、後ろの方から「ひゅ~、言うね~」とおっさんの煽るような声が聞こえてきた。すると、シルヴィの顔がすぐに真っ赤になった。
「ち……違いますよ! 今のはあくまで友人としてって意味で、……決してそういうつもりで言ったんじゃ!!」
「わ……わかったから、落ち着いて。大丈夫。変な誤解はしないから、安心してくれ」
「いえ、別に決して嫌いというわけでもないんですよ! …………その、そこだけは誤解してほしくないです」
「要するにユーマ君が好きと?」
「違います! あ……いや、違いませ……ん? あれ? ……私どうしちゃったんだろ。……なんで~?」
ライアンさんの言葉で困惑するシルヴィは、正直見ていて可愛いという感想しか抱かなかった。……そういえば、元々ここに何しに来たんだったか……まぁ、もういいか。
とりあえず、ライアンさんにサムズアップしてから、混乱しているシルヴィを促して中に入った。




