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二人だけになってしまった空間は先程までとは異なり、かなり静かだった。
「……帰りましょうか?」
先程から何故か一言も発さない主神にそう声をかけても彼女は目を瞑ったまま微動だにしない。
他神の本拠で主神を置いていくなんてことが出来るはずもなく、ハナは諦めて再び黙ることにした。
静かな空間だと、先程の件が頭を過って頭が痛くなるから、本当はさっさと帰って他の眷族達とおしゃべりがしたかった。
子どもを司る女神の本拠にも行ってみたいと思ってはいるが、そう簡単には行けないのが他神の眷族という枷の辛いところだ。
「……ハナちゃん……」
今まで無言を貫いてきた主神がようやく口を開いたことで、ハナの表情は少しだけ明るくなった。しかし、主神の顔を見た瞬間、その真剣な眼差しに気圧されてしまった。
「な……なんでしょう?」
「僕は君の主神だ。君をあの子同様大切な娘だと思っている」
「……嬉しいです」
尊敬する神にそう言われて嬉しくないはずがなかった。それだけに自分の意思がそんな彼女を裏切ろうとしていることが苦しくてしょうがなかった。
「もちろん、君が優真君のところに嫁ぐのも止めたりはしない。むしろ、君が幸せになってくれたらいいなと心の底から願っているんだ。だから君がこれからどんな選択をしようと僕は君を嫌ったりしない。君は君のやりたいようにしなさい」
大地の女神はハナの目を真っ直ぐ見ながら彼女にそう伝えた。その言葉がハナにどれ程響いたのかはこの場にいる二人にしかわからない。
……ただ、一つ言えることは、ハナは女神の言葉に答えられなかった。声を圧し殺しながら泣いてしまったハナは、その後主神と共に自分達の本拠へと戻った。
◆ ◆ ◆
優真と彼に肩車されている子どもを司る女神の二人はとある建物の前に着いていた。
「……本当に? 本当にここで間違いないのか?」
「うん。ここが神々の都での私達の家だよ!」
主神の言葉を聞いたにもかかわらず、優真は信じられないといった風の表情を見せながら、視線をもう一度前に向けた。




